第4章 殺した彼は、死んでいる
《柳side》
知っていた。
あの日から約9ヶ月が経って目覚めた彼が、もう前の彼ではなくなっていたことは。
(―――けれど、信じていたかった)
輝いていた笑顔が、固められたようなそれに変わったのも。
冗談を混ぜる声が、やけに平坦だったのも。
細められた眼が、時折遠くを見ているのも。
全部、気のせいなのだと。
または、まだ体の機能が戻りきってないのだと。
記憶の欠落のせいではないかとも疑ったこともあった。
目覚めてくれたことで安心してしまったのかもしれない。
怯えた眼が笑うから、閉ざされた口が笑みをこぼすから。
―――なんで、生きてんだよ…
罪が軽くなることなんか、あるはずがないというのに。
「おれは、なんということを…」
何度同じ台詞を呟いただろうか。
謝っても謝り足りない。
否、謝ることすら許されない。
―――センパイ、センパイ。見ましたか、今の!できるようになったッス!!
太陽のようだ、なんてどこかの三流詩人のように思えた笑顔はもう、どこにもないのだと。
真っ白な個室から聞こえる声に、そう悟らずにいられない。
丸井が買ってきた匂いの強い花束から香る甘ったるいそれに、目の前が微かに滲んだ。
信じなかったあの瞬間、おれたちは彼を<殺した>のだ。