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もう戻れない夏の日に

第4章 殺した彼は、死んでいる


医者の診察を受けて、先輩たちに質問攻めにされて、学校の先生とこれから学校をどうするかを相談して。
今まで闇に漂っていたからか、起きてからはとても慌ただしかった。

ぐったりと白い枕に頭を預けて思うことはひとつ。家族のことだ。
目が覚めて三日と経つのに、来てくれない。理由は分かりきっている。
「俺、は…要らない」

―――あんたなんか、生まなければよかった…!
―――お前なんか、もう私たちの子供ではない。
―――来ないでよ、あんたなんか嫌いよ。


知ってる、わかってる。
こうなったのも、全部自分のせいだと。
家族が、俺を疎むのは当然なのだと。

「あーあ…、マジ有り得ねぇ」
皆、望んでいたのに。
俺も望んでいたのに。
「なんで、生きてんだよ…」
テニスは出来ない、信じる人もいない、心から笑うだけの感情も失った。
一体生きていてどうしろと?
こんな、人形みたいな俺が生きる価値はどこにある?
「…なんて、意味ねぇか」
最初から、俺の意見が反映されたことなんかないのだから。
俺ができるのは、ただひとつ。
騙して、騙して、バレるまで。
何もかもを忘れた振りをすることだけだ。
「大丈夫…だろ…?」
起きてから、ここまで。
医者にだってバレなかったんだ。
『大丈夫』、怖くない。
もう、怖いとすら感じない。
自然と笑みをつくる口元が、一瞬ひくりとひきつったけれど。
知らない振りして、眼を瞑る。

―――さようなら。

あの日、俺は<死んだ>んだ。
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