第2章 番外編 第二話「割烹着の話」~鬼蜘蛛丸~
これは麻言が兵庫水軍に入り、私と数日共に料理番をしていた時の話だ。
小気味よい音を立て、目前で丸いきゃべつが千切りになっていく。
自分も料理は出来る方だと自負しているが、自分でするのと他者がするのを見るのとではやはり違うな。
その他、手際よく綺麗に切りそろえられた食材につい「ふんふん」感心して声を出してしまった。
上手いもんだ。
まあ、水軍の中で危なっかしい包丁使いをする奴ばかり見てきたせいもあるから余計にそう思うのかもしれないが。
若手の白南風丸や、航の顔が浮かぶと思わず苦笑してしまう。と。
「どうしました鬼蜘蛛丸さん?」
「ああ、否、何でもないんだ」
私の行動が気になったのか、不意にこちらを見てきた麻言へ慌ててそう返した。
そうですか、と納得したのか笑って一言。
そして、彼女はまた食材と向き合う。
それにしても。
ふと麻言が今着ている割烹着を目にした。
何でもない、何処にでもありそうなありふれたものだが、それは元々私が使っていたもので。
つまりは、背丈の小さい麻言にはかなり大きく、袖やら裾やらが全て余っているのだ。
その弛んだ部分を彼女は豪快に縛って、邪魔にならない工夫はしているものの。
正直、毎度毎度そうするのも手間というものだろう。
ふむ、と声を漏らして寸の間考えていると。
――いい案が浮かんだ。急に掌を打つと音に麻言が驚きそうなので、想像で私はそうした。