第2章 番外編 第二話「割烹着の話」~鬼蜘蛛丸~
「――あの、麻言」
お頭と義丸の方をぼうっと見ていた麻言に声をかけると、「どうしました?」とこちらを見て首を少し傾ぐ。
一瞬躊躇ったものの、後ろ手に隠していたそれをおずおずと前に差し出すと
「えっ?これって一体……」
夕日の橙にも近い、鮮やかな赤の布に驚いている様子。
確かにこの色じゃ解らないか。
「あの、割烹着なんだ。私の上げたものじゃ大きいと思って、その……。ちょっと買いに」
上手く言えず、ごにょごにょと口が動く。普通に言えばいいのに、何故こう妙に照れるのか。
二番煎じになってしまったというのもあるかもしれないが、それとは少し違う気もする。
すると、目をこれでもかと言うくらい大きくした麻言。
「そ、そんな。こんな綺麗な色の貰っても良いんですか?」
「あ、その。やっぱ二つもいらないか?」
麻言の言葉に困っているのだと、思ってしまった私は声の調子を落とすが
「ううん、否。嬉しいんです……っ。ああ、でもわざわざこんな良い物を。代金はまたお支払しますんで」
「いや、代金は良いんだっ。私が贈りたかっただけだしな。後、水軍に入った祝いもかねて?」
少し言い訳するような気分ではあったが、そう無理やりこじつけて言うと麻言が微笑を浮かべた。
「ふふふっ、じゃあ大事に使わせて貰います。有難う鬼蜘蛛丸さんっ」
そう言って柔らかく笑う麻言を見て、不意に胸が高鳴った様な気がした。
何だ、急に動悸が?
と、とにかく喜んで貰えて良かった。
そして、つられて私も笑顔を浮かべていた。