第16章 9日目
がちゃっと寝室が開くと、あまりの待ち遠しさに、私はジェイドさんに飛び付いてしまった。
「おかえりなさいっ!!」
ふと、ドロッとした物に触れてその手を見ると、血がついていて、驚いた私は悲鳴をあげてしまう。
「きゃっ……!これ……?」
「やっと、始末できました。」
見覚えのある服と帽子が、ジェイドさんの服から出てくる。
「全く、忌々しい。」
いつも綺麗なジェイドさんの瞳が、いつもより怖い紅い色に見えた。
吐き捨てるように言うと、その物は譜術で燃えて消えた。
「ジェイドさん……あの、ごめんなさい…。
私が勝手にお使いに行ってしまったんです…。」
「ルルさんは、お仕事を従順にこなしただけですよ。怒っていません。」
声色はいつもと変わらないのに、ジェイドさんに違和感がある。
どういう風にとは上手く伝えられる自信はないが、私の知っている方とは別人に思えた。
「でも、今日からですが、明日もその先も、この部屋から出ないで下さいね。」
「…え?」
いつもと変わらない口調なのに、その雰囲気はどこか冷たく、まるで拒絶されているかのように感じる。
怒っていないとは言っているが、きっと従順な飼い犬に噛まれたかのように感じているに違いない。
「また誰かに誘拐されたらどうするんですか?
今回は無事でしたし、奴らの始末も出来ましたが、この先また同じようなことがあったら困ります。」
手首をきゅっと掴まれる。
「誰に触れられてしまうか、わかったものではありません。
もしあのまま、闇競りに出品されてたかと思うと…。」
この方は、なんてお優しいのだろうか…。
身寄りのない私を引き取って、生かせている挙げ句、行方不明になったのをそこまで心配してくださって…。
「ごめんなさい…。」
嬉しさに涙が溢れる。一生おそばにいられたらいいのに。
叶わないことだと思っても、次から次へとこの癒えない渇きが拡がっていく。