第15章 8日目の焦燥
バスタブにはしっかりと沸かし立てのお湯が注がれ、いつものようにきちんと用意されていた。
そこばかりは、使用人に惜しみ無く感謝をしたいと思った。
服を脱がし、どこにも傷がないかをゆっくりと調べる。
背中を見ると、強く打ち付けられた痣が出来ていた。
「守りきれず、すみません…。」
透き通る肌を汚してしまったことにショックを受けた。
ゆっくりとコルセットを外し、髪を手ですいた。
顔についた土を柔らかなタオルで拭き取ると、はっと彼女は目を覚ます。
いつもの可愛らしい瞳は私を写し出す。
「ジェイドさん……」
「ルルさんが、無事でよかったです…。」
「ん、ここ…」
「城に戻ったんですよ。」
「…ひっく……ごめんなさい、私、約束を破って……。」
ぽろぽろと大粒の涙を流すと、カタカタと震える手を取って握った。
「ジェイド…さんっ…!」
「よしよし、もう大丈夫ですよ。」
お互いを確かめるかのように、ぎゅうっと抱き締め合う。
ルルさんを横抱きにすると、二人でバスタブに浸かった。
恐怖から解放された安堵のせいか、ルルさんは恥ずかしがることもなく、ぼーっと一点を見つめていた。
指先から爪先1つ1つ傷はないか、何か痕をつけられていないか確認しながら洗い流していく。
「何もされていませんか?」
「…なわで、縛られて、」
ぽつりぽつりと状況をこぼす。
「いくらで買うかって、二人と、偉い人が相談してて……。」
「怖かったですねぇ…。」
「…はいっ……」
嗚咽混じりにルルさんは話してくれた。
背中の痣を優しく撫でながらよしよしと落ち着かせる。
「他に何か言ってませんでしたか?」
「…えっと…、やみせり?に出すって…言われて、そしたら3人とも出ていって…。」
「……」
危うくもう見つからなかったかもしれない。
冷や汗が額から伝った。
彼女に対する喪失感は、何よりも上回っており、私自身のコントロールを不能にするところだった。
軍人として、常に平静をと心に決めてきていたが、どうもこの少女に対しては揺らぎやすく、たくさんの気持ちが浮かんでは沈んでを繰り返していた。
そこに確かに存在があることを確かめるようにやわやわと身体に指を這わせ、額に、目に、鼻先に、唇を押し付けるだけの柔らかいキスを落とす。
反応を示さない彼女を気にせずに、ひたすら繰り返し、肌に直接彼女の温もりを味わった。