第11章 6日目の色欲
「ルルさん、これを。」
さっきのバスジェルを彼女に渡し、脱衣所近くまで見送る。
「あ、ありがとうございます!」
「貴重な物ですからね。少しずつですよ。」
「はい。ジェイドさん、親みたい…。」
あまりにも強いと、彼女の体力に負担をかけてしまうのを懸念して、つい一言余計に言ってしまった。
「いい香りではあるのですがね。」
耳元に囁き続ける。
「私が香りに酔ってしまったら、ルルさんを気持ち良くさせてあげられませんから。」
「そ、そんなこというの、いやです…っ!」
「どういう、意味で?」
「あ、そういう意味では、なくて……もう!いってきます!」
壁に追い詰めると、するっと、身体をかわしてお風呂場へ向かった。
いい香りが部屋に漂ってくる。
本棚にある花図鑑を出してなんとなく眺める。
雪国育ちだと、やはり草花には疎く、香りや成分の学は我ながら苦労したような。
遠い昔をふと懐かしんで、再び図鑑を覗いた。
いつもより少し早めに出た彼女は、あまり変化が見られなかった。
「お水残ってますか?」
「どうぞ。」
水差しの水をグラスに注いで渡す。
コクコクと小さな音で吸い込まれていく。
楽しみのような、緊迫感があるような、そわそわとした気持ちだった。
(若い時ならこういう状況下でそわそわするのもわからなくないのですがねぇ。本当に無駄に年を重ねたものだ……。)
「…ジェイドさん?」
「はい、なんですか?」
「お風呂、行かれないんですか?」
「一緒に入ってくれないんですか?」
「今入りました!」
「明日から一緒でも良いということですね。わかりま…」
「ち、違います!だめです!」
相変わらず照れた顔が可愛い。
もう、と言いながら寝室に向かう姿を目でおっていた。
「おかしいですね。深読みしすぎましたかね?」
一人ごちると、花のふわふわした香りが強くなる浴室へ向かった。