第53章 堕天
「つ!」
ルルさんが一瞬で真っ赤になるのを見て笑いが溢れる。
鏡の前で裾の長さや腰紐を調整をしながら見て回る。
直しをしてもらったとはいえ、標準の体型より小さめの彼女にはまだ少しゆとりがあった。
「私が大人になるの、本当に待ってくれますか…?」
「当たり前じゃないですか。」
「恋人なのか親子なのかわからねえなそれだと。」
と陛下は呆れた笑いを漏らす。
「その間に知らない人と結婚したらいやですからね!」
「ありえませんねぇ。」
はいはい勝手にどーぞ、と陛下は部屋から出ていった。
ルルさんは漸く私に対しての遠慮をしなくなった。
いつもいつも『凄い人だから』と自分と不釣り合いなのを気にしており、なかなか結婚の話までこぎつけられなかった。
数年お互いに探し続けていた人だった、という事実は、それを容易に乗り越えられる程の大切なことに気付き、改めて二人で生きていこうと決心させてくれた。
私も当初はやはり彼女の人生を勝手に作ってしまい、さらに束縛をしてしまって良いものか、という気持ちもあって何度もすれ違ってしまったが、それでもお互いになくてはならない存在だと認めざる終えなかった。
(まあ、もう手離す気にはなれませんけれどね。)
ルルさんはドレスを脱ごうとしていたが、紐をほどいて欲しいと言われ、手伝おうとした。
ふと悪戯心が大人気なく浮かんでしまい、そのまま着ていましょうと提案した。
「汚してしまいそうで…。」
「また綺麗にすれば良いですよ。」
「で、でも…。」
不安そうに聞く彼女にどんどんと色々な考えが浮かんでいく。
「今日は月も明るいですし、そのまま夜の散歩をしましょう。
とても幻想的ですよ。」
手を引いて寝静まった城内から中庭へ出る。
月も星も輝いていた。
静かな中庭には、他には誰もおらず、二人だけの空間となっていた。
白いドレスが月に照らされて青白く光っていくように見える。
繊細な飾りや重ね合わせた布から、彼女のしなやかな細い足がシルエットで見える。
部屋の外と中では見え方がまるで違うように思えて、ゆっくりと歩調を合わせて顔を覗く。
もうすぐ全て手に入る。
そんな高揚感を隠せずにいた。
瞳にどんどんと熱がこもっていくのが自分でもわかる。