第38章 62日目
ジェイドさんがバスタブにお湯を溜めてくれて、気付いた時には一緒に浸かっていた。
密着する肌が凄く恥ずかしくて私はじっと動かないようにした。
「すみません、女性の香水はあまり得意ではなくて。」
「…っ」
きっと社交界でモテモテだったに違いないジェイドさんを想像してもやもやとする。
「次からは一緒に行きましょう。」
私の不機嫌を感じ取って、そんな優しいことを言ってくれる。
「あ、やはりだめです。
ドレスアップしたルルさんに悪い虫が付いてしまっては困ります。」
「つ、付きませんよっ!」
「ルルさんは自分の無防備さを少し自覚した方がよろしいですよ。」
お湯の中でお腹に手を回される。
触れるか触れないかくらいの距離で手を上下に動かされる。
「ゃ…くすぐった…っ…」
声を出すと反響して自分に反ってくるのが恥ずかしくて、慌てて口を抑えた。
「心地良い声です、勿体ない。」
背中にあたる固いのが何かわかって、顔が熱くなる。
「わかりますか?
私がこんな風になるのは、もう貴女だけですから。」
あまりにも恥ずかしくて、コクコクと頷くことしか出来なかった。
身体が固まって、水面をうつことすら拒まれるような沈黙。
息をするのすら忘れそう。
「…私、ジェイドさんを疑っていました。
ごめんなさい。」
私は小さな声でそう言った。
ジェイドさんは、そういえば、と納得したように呟くと、
「あれは何故でしたか?」
と聞いてきた。
「…ジェイドさん、噴水で私を待ってるとき、綺麗な人といましたよね。
その方と、……キス、してましたよね。」
恐る恐ると続けた。
「していませんよ。」
「嘘。私、見てました。」
すぐに否定したジェイドさんの顔が見たくて振り返る。