第38章 62日目
ピオニー様がしてくれたのか、ベットの上でブランケットをきちんと被って私は横になっていた。
リビングから音が聞こえて目が覚めた。
そこに行くと、少し髪が乱れたジェイドさんがいた。
違う人の香水の匂いがふわっとする。
燕尾服のカフスボタンを外して脱ごうとしているところだったようだ。
「…ルルさん。」
ふわっと笑ったその顔はあまりに色っぽくて、一瞬見とれてしまう。
「おかえりなさい…。」
おずおずと寝室から出て、視線を合わせないようにした。
あまりにも昨日のことが気まずくて。
「会いたかったですよ、とても。」
「他にも、会った女性がいるのではないですか?」
つんけんとして聞いてしまう。
こんなことでやきもち焼いてもしょうがないのに。
自分があまりにも幼稚で、落ち込みたくなる。
「すみません。」
謝られたことが、やっぱり、と思わずにいられなくてショックを受ける。
「やっと全てが解決しました。
ルルさんには、辛い思いをたくさんさせてしまいました。」
「お見合い……するんですか?」
「もうそんな話はどこにもありませんよ。」
髪をほどき、部屋着へと着替えるジェイドさんから目を反らす。
恥ずかしいのと、悔しいのと、悲しいのと。
どういう顔をしたらいいかわからない。
後ろからふわっと抱き締められ、
「貴女だけのジェイドですよ。」
と言ってくれる。
「本当に?」
「はい。」
抱き締められたまま、ジェイドさんは私の左手を握る。
そのままどこからともなく出てきた、紅い宝石の指輪を、薬指に付けられた。
ジェイドさんの瞳と同じで、きらきらしててとても綺麗だった。
「身の回りを説得し、片付けるのにもう少し時間がかかります。
まだお約束しか出来ませんが、どうか私だけの物になってくれませんか?」
「……っ!」
ますます力強く抱き締められる。
胸がきゅんとするのに少し寂しい。
「後ろからは、ずるいです…。」
「…そうですよね。」
肩に手を添えられて、正面に向き合う。
距離が近くて私のどきどきがすぐ聞こえそうだ。
「全てが終わったら、結婚しましょう。」
「……私なんかで、いいんですか?」
「私には、貴女だけです。」
「嬉しい……。」
指輪を見て顔がほころぶ。
ジェイドさんも少しだけ恥ずかしそうにしていた。