第31章 58日目の緊迫
「…それは、どういうことで?お会いすらしてくださらないということですか?」
「はい。私は彼女以上に相性のいい方を存じ上げませんので。」
「そうですか。とても残念に思いますわ。
私となら、世間体もお気になさらずにいらっしゃれると思っていましたのに。
今後の貴方を思っているなら、あの子とは別れるべき……」
「わかったような口を聞かないで下さい?」
「…っ!」
特に怒っているという訳でもなかったのだが、私は彼女の発言に食いついてみた。
彼女は驚き、そして私の目の怒張に少し怯える。
「私と彼女は、何回もその件でぶつかり合いました。
ですが、結局お互いに無くてはならない存在だと気付いたのです。
貴方にも、早くそういう方が現れますことをお祈り申し上げます。」
最後にハラリと落ちてきた髪をすくい、耳にかけて差し上げる。
はっと我に返った彼女は、失礼します、と足早に去って行った。
「さてさて、この後どう来るんでしょうねぇ?」
久々に脅かされる平穏に、苛立ちを覚えつつ、愛しい少女を待ち焦がれた。
ようやっと着いた彼女に罰ゲームの話をすると、いつもの照れ隠しとは違う、本格的な拒絶をされる。
「どうしたのですか?ルルさん。」
「ジェイドさん、私に隠し事をしていますよね。」
ピリピリとしたルルさんを見たのは初めてだった。
何かに気付いたのだろう、嘘をつくわけにはいかないので反らしながらに受け入れた。
「今はしていますねぇ。」
「!」
「なんで言わないのですか!?」
「現段階で、貴女を傷付けない方法がわからないからです。
その方法を思い付いてから、全てをお話します。」
「…なっ…!そういう上手なことを言って……他にもそういう方がいるんですよね?」
元の雇い主についてではないのか?
私は勘違いしていたのかと一瞬戸惑うが、先程まで一緒にいた女性についての話をしているのかもしれない。
「ああ、ルルさん、先ほどのやり取りを見ていらしたのですね。」
「な……、なんで言わないのですか!?そういう方がいるって…。
私はやっぱり、ジェイドさんにとっては都合のいいペットだからですか?」
「私にはルルさんしかいません。先程の方も…」
「もういいです…聞きたくありません…。」
「聞いてください。」
手首を捕む。