第31章 58日目の緊迫
午後からの仕事は少し空き時間が出来たため、ルルさんと過ごそうと思い、部屋を訪ねた。
メイドに戻ったルルさんは、昼夜問わず働き、私を夜には出迎えてくれる。
労をねぎらって、先日期間限定メニューの始まったカフェにお誘いした。
「5時まで空いてますか?」
「す、すぐには行けないのですが……30分だけ、城下町の噴水でお待ちいただけますか?」
両手の指を合わせて首を傾げて聞く。
なんて可愛いのだろう。
「勿論ですよ。30分以内じゃなかったら、城下町の真ん中で1分間キスしますから、頑張らなくていいですからね?」
「っ!?が、がんばりますっ!」
慌てて仕事に戻る小さな背中を見送り、私は先に城下に向かった。
ベンチに座り、昔取り寄せて忘れていた本を読んでいると、全く知らない女性に話し掛けられた。
「カーティス様…お会いできて光栄ですわ。」
「どちら様でしょう?」
「先日、父にお写真を渡して頂くようお願いしたのですが、見覚えございませんか?」
写真は見ていないが察しはついた。
「ああ、お見合いの話の方ですね。」
「そうです。」
失礼します、と言うと彼女は隣に座った。
少し派手な見た目ではあるが、上品な方なのがよくわかる雰囲気ではあった。
胸元を露出したラベンダー色のドレスは、とてもよく似合っていた。
「カーティス様は、今現在可愛らしい女性と交際中とお伺いしました。」
「はい、それをご存じでいらっしゃる上で、お見合いの話を持ち掛けていらしたのでしょうか。」
笑い掛けると彼女は頬を赤らめた。
「申し訳ございません。父が勝手に進めた話でございます。私はどちらでも構わないのですが、貴方のような聡明な方との縁談は貴重だと思いましたの。」
「こちらこそ、申し訳無いのですが、お断りするということでお話を進めさせて頂いております。」
一瞬お顔がひきつられるのを私は見逃さなかった。