第1章 まじない事件
わずかばかりあけられていた距離を縮め、了承の返事を頂いてから緩められた襟元に指を二本だけ潜り込ませて、見えた範囲を確認する。できる限り肌には触れないようにと注意したがやはり限度があって、触れるか触れないかの瀬戸際で爪の先が主の胸元の肌を掠めてしまった。
「んっ…」
まずい……。
主から漏らされた甘さを含む吐息のようなお声。肩から胸元まで開かれた襟と、暴かれた白い肌…まずい。非常にまずい。
俺の中の理性が緊急警報を鳴らす。あらぬところに集まり始める血液をなんとか分散しなくては!
これは任務だ。主を害するものを探すだけだ。妙な気を起こすな俺!
「…申し訳ありません…ご不快でしょうけれど、できるだけ肌には触れないようにしますので…」
「ふ!不快な訳ありません!」
「はっ…」
「あっ!い、いえ、長谷部に触れられて嫌な訳ないでしょ…大丈夫…」
何を言っているのかわかっているのだろうか、この方は。
触れても良いというお許し。しかも頰を桜色にして恥じらいながら、俺にならと。
俺の理性を試しているのだとしたら本当に悪質だ…が、この方のことだ。試している訳ではないのだろう。わかっている。何の考えもなく口にしているだけだ。だから余計に性質が悪い。
理不尽だと自覚していてもふつふつと怒りが湧き上がる。
俺はこれまでも、今も。こんなにも…こんなにも我慢しているのに…!