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フリリク:へし切長谷部の場合

第1章 まじない事件







「うーん…呪詛とは違うようだね。」
「何故違うと言える?ならばあれはなんだ?!」
「長谷部、落ち着いて…それで、石切丸さん…」

訪れたのは祈祷部屋。丁度朝の祈祷を終えた石切丸を正面に主と共に並び座す。
主にどんな影響があるのか、どう対処すればいいのか、何も判明しない返答に苛立ちを押さえ切れず石切丸に詰め寄ると、それを窘めるように主がきつく握られた俺のこぶしに御手を添えた。続きを促すように石切丸に向き直る主は先ほどよりはお顔の色も戻られて、ひとまず即効性のあるものではなかった事がうかがい知れた。

「呪詛には必ず穢れがついて回る。恨みや妬み、憎しみや嫉みといったものが素となる以上は呪詛と穢れは切り離す事はできない。主、中に入った黒い物から穢れは感じられたかい?」
「………いえ、そういったものは無かったように思います。」
「長谷部くんは?君も見たし、接触もしたんだろう?」
「…ああ、確かに…穢れは無かった。」

思い出し、先ほどの一連の出来事を反芻する。確かに穢れは感じられなかった。
主と俺の反応にゆっくりと一つ頷き、石切丸は続ける。

「呪いの類であることは確かだろう。」
「まじない…」
「主、黒い物はどこから入ったのかな?」
「胸…です。」

そっと胸部の中心を抑える主がお労しい。
気丈に振る舞っていらっしゃるが不安でない訳がない。

「体に不調は感じるかい?具合が悪いとか、痛いとか。」
「それが、特に何も……呪いであったとして、どう対処すればいいでしょうか…」
「…今、特別不調がないのであれば遅効性…もしくは発現する条件があるはずだ。呪いの一種である以上、人為的なものであることも間違いない。最善なのはこの呪いを作った本人を見つけて解呪してもらう事だけれど……心当たりはあるかい?」
「………いえ…。」
「そうか………うん、穢れはもとより愛憎や嫉妬といった強い感情も無いようだからね。むしろ無機物のような呪いだ。主が恨まれているということはないだろう。」
「そ…う、ですか…それだけでも、少し安心しました…」

知らずのうちに恨まれているという事態だけは回避できたと、主はわずかばかり緊張を解けたようだった。
状況は全く好転していないが、主の憂いが一つ減っただけでも収穫ではある。だが。
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