第2章 雨×オーラ×強い光
鍋の中でコポコポと音を立てている湯に気づいた俺は、リュックの肩紐に括りつけていたタオルを解いた。
それで手を包んで湯の中にある缶を掴み。珈琲だけを近くの床に置いてミルクティーの缶をそのままタオルで包んでナナに差し出した。
「ほいよ、飲んどきな」
不安そうな顔で、俺の顔とミルクティーを交互に見つめるナナ。
まぁ今日初めて会った人間をすぐに信用する奴なんて、そういやしない。
例えそれが目の前にいるような子供であっても、例外ではないだろう。
だが今俺の腕は炎の真上にあるわけだ。
俺は時々舞い上がる火の粉が服に穴を開けてしまわないかの方が心配で、半ば押し付けるようにしてナナにミルクティーを手渡す。
俺は慌てて自分の服の袖部分を、それこそ穴が開くんじゃないかってくらいの勢いで睨みつけ火の粉が飛んでいないことを確認する。
仕事で着る服、つまり一張羅はこれしかないから本気で心配になるのだ。
一通り服の無事を確認した俺が安堵の溜息をついて顔を上げると、さっき俺がミルクティーを渡した時のままの状態で固まっているナナ。
大人の意地汚い所を見られてしまった俺はどうしていいかわからず、へらっと笑って彼女から少しだけ目を逸らした。
すると、ぷっと息を漏らす音が聞こえ、それを皮切りに部屋中に笑い声が響き渡った。
『あははははッ!ふ、っふふ、ふふふ……っく』
さっきまでの辛そうな表情をしていた女の子はどこへ行ったのか。
こんな表情も出来るのかと不思議に思ったり、断然こっちの方が男受けが良さそうだとか、どうでもいいことを考えながら彼女の笑いが収まるのを待つ。
満足行くまで笑えたのか、目の端に薄らと滲んだ涙を拭ったナナはまた真剣な表情を作ってこちらを見据えた。
『あの』
『どうして、……あたしを助けてくれたんですか?』
顔を上げて真っ直ぐな目で俺を見つめるナナ。
その目を見て俺は思ったんだ。
「なぁ、ナナ……」
俺の手で、此奴を強くしてやりたいと――――――…
「強く、なりたくないか?」
この時ナナの瞳に強い光が宿ったのを、俺は見逃さなかった。
*