第2章 雨×オーラ×強い光
しばらく放心状態だった私は雷の音で我に帰った。
また赤に塗れた両親が目に入り、激しい吐き気と眩暈に襲われる。
私は覚束無い足取りで立ち上がり、両親の身体を置き去りにしてその場から逃げ出した。
靴も履かないまま、家の前に広がる森の中を駆け抜ける。
着ている服がどんどん雨を吸い込んで冷たくなっていくけれど、不思議と重くは感じなかった。
ただ、この時の私は怯えていた。
両親が死んでしまって悲しいはずなのに涙は一筋も流れなかった。
頬を伝う雨も、絶え間なく響く雨音も、あんなに怯えていた雷の存在でさえ、今は気にならない。
そのくらい、私の頭の中には“逃げなくちゃ”と言う意識しかなかったのだ。
そうしないと、あの不気味な瞳がどこまでも私を追って来るようなそんな気がしていた。
喉が渇いて焼け付くように熱くても、泥で足が汚れても、足を止めることだけはしてはいけないと思っていた。
少し疲れてふと地面に落とした視線が、泥に塗れた自分の足を伝う血の存在を捉える。
自分の身体に出来た傷を認識した途端、足に鈍い痛みを感じ始めた。
さっき見た赤よりも少し色鮮やかなそれ。
傷はさほど大きくもないのに、流れ出る血は止まりそうにない。
(このまま血を流し続ければ、あたしは死ねる?)
(そうすれば、おとうさん達にも会えるのかな……?)
幼いながらにそんなことを思ったのを、今でもよく覚えている。
視界いっぱいに広がっていた緑が消え失せ、遠くに小さな灯りがぽつぽつと見える。
近くに人が居ると知り少しの安堵を覚えた私は、一気に重たくなった瞼に抗うことなく瞳を閉じた。
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