第5章 暗闇×過去×甘い罠
『レオリオ、返事して!レオリオ――!!』
いくら探しても見つからないレオリオさんに焦りが募る中、私の隣を走っていたクラピカさんが急に立ち止まった。
『クラピカさんっ!?』
足を止めてそう呼びかけたが、その瞳は私を映してはいなかった。
少し先を走っていたゴンも異変に気付いたのか、こちらに引き返して来る。
『どうしたんですか!?』
もう一度呼びかけてみるが、クラピカさんは虚ろな瞳で正面をじっと見つめたまま何も言ってくれない。
『……え……ょだ……』
クラピカさんの口が小さく動いたかと思うと、彼は自分の背に手を伸ばし取り出した武器をゆっくりと構えた。
また何か呟いて苦しむ様に目を瞑り、数秒後に目を見開いたクラピカさんの瞳を見た私は驚愕した。
『えっ……』
薄い碧色だったはずのクラピカさんの瞳が、今は血の色を思い出させるような赤に染まっていたのだ。
怖いくらいに綺麗だと感じさせるそれは、同時にあの日のことを思い出させた。
赤に塗れてもう二度と目を開けない両親と、闇をそのまま抜き取った様な光の無い瞳。
思い出した途端、指先が震えるような感覚を覚えて自分の掌を見る。
それが恐怖から来る震えなのか、なんなのかはわからない。
けれど私の掌は、あの日のアイツと同じように真っ赤に染まっていた。
『どうしたのっ!?』
耳が拾った声。ゴンが近くまで来ているのはわかっていた。
けれどゴンの姿はどこにも見えない。
私はこの言い知れぬ恐怖から逃げ出したくて、微かに聞こえる地面を蹴る音を頼りに必死にゴンを呼ぶ。
そして私のすぐ側で足音がぴたりと止み、そのことにひどく安心した。
『…ゴン!!!ご、ん…
《ナナ……》
振り向いた先に居るはずのゴンの姿はどこにもなく、
目の前に現れたのは、窓を打つ雨とその外で咲き誇る薔薇。
そして窓際に置かれた白いクロスのかかったテーブルと、それを囲んで優しく微笑んでいる両親だった。
『……お父、さん?』
そう思った時にはもう、遅かった。
誰かが必死に私の名前を呼んでくれているような気がしていたけれど、私はその温かい微笑みに誘われて自分から意識を手放した。
*