第3章 決意×出発×試験開始
頬を撫でて行くやわらかい風に微かに潮の匂いの混ざるこの丘からは、碧く澄んだ海が一望できる。
ニール兄さんの家からそう遠くないこの場所は、修行の最中に見つけた私のお気に入りの場所。
小さい頃住んでいたあの島にどこか似ていると感じて、以前からここに立てようと決めていた。
目の前に佇む冷たい墓石には6年前の数字と両親の名前が刻まれている。
ニール兄さんに強くなりたいと伝えたあの日から数日が経った頃、私は一度ニール兄さんと共に自分の家を訪れた。
けれど私の家は何者かによって焼かれてしまっていて、2人の身体も見つけることは出来なかった。
だからこれは形だけのお墓で、この下に2人は居ない。
綺麗に整えられている墓の前にしゃがみ込み、ピンク色の薔薇を一輪置いて目を瞑る。
長いようで短く、それでもいろいろなことがあったこの6年間。
いろいろなことと言ってもその殆どが念や体術の修行だったけれど、ニール兄さんと過ごす日々は楽しかった。
基礎体力の強化と四大行の修行を終えてからは、毎日500回の腹筋と腕立て、それから15kmのランニング。
私がベッドを使いたいと駄々を捏ねたことで始まったベッド争奪かくれんぼ。
修行を初めてすぐの頃は疲れ切って夕方から眠り、朝お風呂に入ると言う生活を送っていたが、今ではたまにベッド争奪戦に勝てるまでになった。
目を開けると太陽の光が眩しくて、思わず目を細めた。
あの日私を拾ってくれたことも、私をここまで強くしてくれたことも。
ハンターについていろいろ教えてくれたことも本当に感謝してるし、ニール兄さんの強さには尊敬もしている。
もしも私がハンターの存在を知らないままで居たなら、アイツに復讐することを諦めてしまっていたと思うから。
だけど――――――――…
『……影からこそこそ覗き見するなんて、趣味悪いですよ?』
私は深い溜息を吐いてゆっくりと立ち上がりながら言った。
私の後ろで風に揺れている木の向こう側から、僅かに漏れ出ているオーラは間違い無くニール兄さんのものだ。
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