第9章 双黒と対黒
此処だけ外界と空気が違う一室――
「派手に毀損されたものだね。任務失敗の代償と云う訳だ」
その空気を変えている人物の前で樋口は立っていた。
「申し訳ありません」
「此の儘、意識が戻らぬかも知れないね」
「そんな!」
その男の発言に驚愕した表情を浮かべて答える。
「……気を落とすことはない。君達は佳く頑張ったよ。」
男が手に持っていた紙をテーブルに置く。
どうやらカルテらしかった。
「確かに探偵社の襲撃に失敗し、人虎の捕獲を謬り、輸送船を積荷ごと沈めたけど頑張ったから良いじゃあないか。頑張りが大事、結果は二の次だ。そうだろう?」
「……」
嫌味としか取れない男の言葉を苦い顔をして黙って聞く樋口。
「そうそう。」
何かを思い出した様に明るい声で話題転換する。
「作戦中、芥川君が潰した密輸屋――『カルマ・トランジット』の残党が手勢を集めているそうだ。芥川君への復讐だろう」
「!」
全身大怪我で昏睡状態の芥川だ。
普段の強さならまだしも今、拐われたりしたならば。
樋口の頭から不安が離れなかった。
―――
樋口が退室した後――
「芥川の周囲警備を固めますか?首領」
先程、樋口と対峙していた男に声を掛けるポートマフィア幹部が一人、中原中也。
「否。」
「………。」
任務失敗の代償に芥川を棄てるのか……?
中也は黙っていた。
「違うのだよ、勘違いしないでくれ。」
「?」
食事に使っていたナイフとフォークを置く。
「先刻は云わなかったけれど、カルマ・トランジットの残党を手引きした者が居るのだよ」
「!」
手引きだと?芥川を襲わせるために?一体誰…
「真逆……」
中也の脳裏に先程会ったばかりの女の顔が浮かぶ。
「戻ってきているそうじゃないか、彼女。愛しの兄の元へ」
「………。」
矢張りそうか。
彼女、紬が……
太宰が傷つくところを黙って見ているわけがなかったのだ。
「カルマ・トランジットが国外の傭兵を雇い、勢力をあげたことの確認が録れている。恐らく彼女が斡旋したのだろう」
困ったねえーと溜め息を着く男、ことポートマフィア首領。