第8章 在りし日の…
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「久しぶりの我が家か……疲れたぜ。」
玄関で靴を脱ぎ、部屋に入る中也。
時間が時間なだけに手元すら見えない夜半時。
パチッ
明かりをつけて目に入った光景に
「………。」
言葉を失った。
太宰 太宰 太宰 太宰 太宰 太宰 太宰 太宰………
壁一面に『太宰治』の写真。
隙間なく埋め尽くされたその写真たちは一体、何枚使用しているのだろうか。
「あの女ァ……!」
直ぐに犯人の顔が浮かぶ。
ズカズカと部屋に入り、写真に手を掛ける。
「矢っ張り『嫌がらせ』の質が落ちてねー!クソッ!」
吐き気と頭痛しか起きない写真を乱暴に引き裂きながら
「あ゙ー!俺の秘蔵のワイン達が無ェ!!」
きっちり保管していたワインが殆ど無くなっていることに気付く。
「死なす……絶対にアイツ死なす」
太宰にしてやられた時と同様にガックリと項垂れる中也。
そして更に気付く。
「……。」
ベッドの上にある不審極まりない長方形の包み。
ご丁寧にラッピングまでしてある。
爆弾か……吃驚箱か……
否、前者は無ェな。
アイツのことだ。
太宰より執拗だが過激ではない。
恐る恐る包みを開く。
箱を開けて固まる。
「こ……これは…」
入っていたのは一本のワインと
「何で俺が飲みたかったワインをアイツが知ってんだよ……」
『幹部昇任おめでとう』
それだけ書かれたメッセージカード。
今日は最初から最後まで太宰兄妹のペースに乗せられっぱなしの中也。
思い出しただけでも腹が立つ……!
盛大に舌打ちする。
が。
カードに眼を移し直した中也は笑っていた。