第7章 序章
「剰え今度は敵としてマフィアに楯突く。とても――『元幹部』の所業とは思えぬ。」
「そして『君の元上司』の所業とは?」
負けじと言い返す太宰の顔面を殴り付ける芥川。
「貴方とて不損不滅ではない。異能に頼らなければ毀傷できる。その気になれば何時でも殺せる。」
「そうかい。偉くなったねえ」
「……」
「今だから云うけど君の教育には難儀したよ。呑み込みは悪いし独断専行ばかりするし」
太宰が挑発混じりの視線を寄越す。
「おまけにあの『ぽんこつ』な能力!」
「……!」
芥川は反論せずに手を握り締めただけだった。
「貴方の虚勢も後数日だ。数日の内に探偵社を滅ぼし人虎を奪う。」
太宰に背を向けて歩き出す芥川。
「貴方の処刑はその後だ。自分の組織と部下が滅ぶ報せを切歯扼腕して聞くと良い」
「できるかなあ、君に」
しかし、太宰の言葉に歩みを止める。
「私の新しい部下は君なんかよりよっぽど優秀だよ」
芥川の怒りが振り切れた。
ゴッ!
太宰を殴り付ける。
「処刑の前に貴方の大事なものを先に目の前で奪おう」
「へぇ……」
口から血を流しながら芥川を見る。
「貴方の隣に繋ぐために捜索中だ。時期に見付かる。目の前で凡る凌辱の限りを尽くそう」
「やってみ給えよ。出来るものならね」
ハッと笑いながら返事する太宰の目は一切笑っていない。
「紬が君たちの追跡で捕らわれるわけないからね。若し、仮に鉢合わせたとしても……返り討ちにあってあの世行きだ」
「ふん。戯言を」
芥川は最後まで話を聞かずに太宰に背を向けて歩き去った。
「紬は君達が考えている以上に残忍さを失ってはいないのだよ」
誰も居ない部屋で独り呟いた言葉は冷たく響いて―――消えた。