第6章 Murder on D street
お手上げのポーズをしながら歩いていく太宰兄妹。
台詞だけでなく行動までもが一緒だ。
「あ、でも!彼女の台詞まで中てましたよね」
お手上げと云えど犯人は確実に判っていた二人にさらに質問する。
「うん、あれはね……」
それは判るのか。
敦は推理に耳を傾ける。
「彼女には交際相手はいないって話だったよね。でも彼女の腕時計、海外銘柄ものだ。独り身の女性が自分用に買う品じゃない。」
「それに巡査の腕時計も同じ機種の紳士用だった。」
「じゃあ……あの二人は」
「うん。早朝の呼び出しに化粧もせずに駆けつける。」
「そして同じ機種の腕時計。」
「「二人は恋人同士だったのだよ」」
「恋人同士……」
「そう。職場にも秘密のね。だから彼は彼女の顔を蹴り砕けなかったのだ。」
「そうしないとマフィアの仕業に見せかけられないと判っていてもね。」
「………。」
敦は何も言えなかった。
「さて敦君。これで判ったろう?」
「何がです?」
太宰の問いに、判らない様子の敦。ニコッと笑って続けた。
「乱歩さんのあの態度を探偵社の誰も咎めない理由がさ。」
―――
帰宅後。
「驚いたよ。本当に異能力じゃないんだね。」
お茶を飲みながら目の前に座る兄に話し掛ける。
「私も初見は驚いたさ。国木田君に『お前が他人を誉めるなんて珍しい』と云われるくらいに驚いた。」
ふふっと懐かしむように話す太宰。
「その様子じゃ『人間失格』を発動したね?」
「勿論だとも。そんな異能力、在るわけ無いと思っていたからね。」
妹と同様にお茶を啜る太宰。
「そういう紬だって『終焉想歌』を発動してたじゃないか。」
「勿論だとも。そんな異能力、在るわけ無いと思っていたからね。」
湯呑みを置き、溜め息を着く。
「ってことはあの一瞬で見透かされたのか。」
「恐らくね。」
どんなに調べても何も出てこない筈の自分達の過去だが……。
「手を打つかい?」
「必要ないよ」
紬の問いに即答する。
「相変わらず温いねぇ治は。」
「ふふっ、紬に比べたらね。しかし」
そう云うと紬を自分の胸元に引き寄せる。
「もう、必要ないのだよ紬」
「……。」
言い聞かせるようにもう一度、紬に告げた。