第6章 Murder on D street
マフィアの奇襲でボロボロになっている探偵事務所。
一人を除いた全員が片付けに勤しんでいる。
「また殺人事件の解決依頼だよ!この街の市警は全く無能だねえ。僕なしじゃ犯人ひとり捕まえられない。」
除いた一人こと、江戸川乱歩は服装を整え、ニコニコしながらひとりで喋っている。
「でもまあ僕の『超推理』は探偵社、いやこの国でも最高の異能力だ!皆が頼っちゃうのも仕方ないよねえ!」
上機嫌で話しながら事務所内を歩く乱歩。その足が、敦が今まさに片付けようとした本を踏みつける。
「乱歩さん。その足元の本、横の棚に戻さないと。」
本棚を指しながら、敦が乱歩に話し掛ける。
「これは失礼。はいどうぞ。」
乱歩は本の上から直ぐに退くと、本を拾うことなく、ニコニコしながら『此処に直せ』と云わんばかりに本棚の隙間を指差す。
敦はその行動を呆れ顔で見て、本を拾おうとした瞬間、国木田が素早く本を拾って棚に直した。
「頼りにしています、乱歩さん。」
「そうだよ国木田。きみらは探偵社を名乗っておいてその実、猿ほどの推理力もありゃしない。」
国木田を指差しながら乱歩が国木田に失礼混じりの言葉を投げ掛ける。
が、国木田は全く怒る気配を見せない。
「皆、僕の能力『超推理』のお零れに与っているようなものだよ?」
「凄いですよね『超推理』。使うと事件の真相が判っちゃう能力なんて。」
「探偵社、いえ全異能者の理想です。」
「はっはっは、当然さ!」
それどころか、全員が乱歩を褒め称える状況だ。
「……。」
敦には訳が判らず、ポカンとその様子を見ていた。
そんな敦に国木田が言い放つ。
「小僧。ここはいいから乱歩さんにお供しろ。現場は鉄道列車で直ぐだ。」
「ぼ、僕が探偵助手ですか?そんな責任重大な」
慌てて反応する敦。
「真逆。二流探偵じゃあるまいし助手なんて要らないよ。」
観賞用のサボテンをつつきながら乱歩が言う。
「え?じゃあ何故」
乱歩の言葉に驚きながら敦が訊ねる。
「僕、列車の乗り方判んないから。」
乱歩はその質問にニッコリ笑って答えた。