第5章 ヨコハマ ギャングスタア パラダヰス
「……ッ。零細探偵社ごときが!我らはこの町の暗部そのもの!傘下の団体企業は数十を数え、この町の政治・経済の悉くに根を張る!たかだか十数人の探偵社ごとき――三日と待たずに事務所ごと灰と消える!我らに逆らって生き残った者などいないのだぞ!」
代わりに樋口が一気に捲し立てる。
しかし、
「「知ってるよその位。」」
樋口の発言に全く動じてない2人。
その様子を驚きもせずに笑いながら流す芥川。
「然り。他の誰より貴方達は悉知している。」
不適な笑みを浮かべ芥川の話を聞く太宰。
「――元マフィアの太宰さん」
「!?」
元……マフィア………!?
芥川の言葉に驚く樋口。
そんな樋口に芥川が撤退を指示する。
「あっさり引くねえ?今までの君なら考えられないけど」
紬がその後ろ姿に話し掛ける。
「『対黒』が揃っていることが判っただけで充分な収穫ですよ。」
「ああ、そう」
芥川の返事に、太宰の方を見る紬。
太宰は小さく息をはいただけで何も云わなかった。
二人の姿が見えなくなるまで見届けた後
「私達も帰るとするか」
太宰が切り出す。
「私は今から買出しに行くから先に帰って」
「えっ!」
「ちゃんと三人負ぶって社まで帰るんだよ」
「一寸待って!手伝ってくれ給え!ほら、早く与謝野女医に診せないと!」
ニッコリと笑う紬に、手をバタバタさせながら抗議する太宰。
「美人さんと心中したいのだろう?」
「~~ッ!」
急に低い声で紡がれた言葉にビクッとする太宰。
「最近、私をよく怒らせるねえ治は。」
ムッとした様子で云う紬の顔を見れずに俯いている。
『許せる』のと『怒らない』は別モノ
そのことを知っている太宰は反論が出来ない。
じゃあねとって去ろうとする紬の腕を掴んで言った。
「何でも云うことを聞くから機嫌直して……」
完敗である旨を述べる。
「ふふっ。そこまで云うなら仕方無いなあ」
直ぐに笑顔になったところを考えると然して怒ってはいなかったようだ。
太宰は安堵の息を着いて谷崎と敦を背負い、探偵社へ歩き出した。