第38章 悲劇なる日曜日
「今回の一件は好機だったでしょうねぇ………下っぱになって中也で遊びながら適当に過ごす心算だったのにコレだし」
紅葉から受け取った書類を懐に入れながら出された茶を啜る。
「………本当にいいのかえ?」
「いいんですよ。どちらにせよ状況は最悪です。私が探偵社に残っていれば粗を探している連中は余計なモノまで見付けてしまう」
「!」
紅葉の顔が強ばる。
紬が云う『粗』が何か、判ってしまったからだ。
「そうでなくても探偵社の調査員は全員『お尋ね者』になるーーー社長の気質を逆手にとった手管のせいで」
「……。」
陽の当たる世界にいった妹分の姿を思い浮かべているのだろう。紬の言葉で、不安を隠せない表情のまま紅葉。
「『粗』は大丈夫かえ?」
「何とも云えません。私の予想だと『不楽本座』ーーー探偵社員が戻りたくなくなる様な………否、『探偵社員に戻れなくなる』事態が起こる」
「……。」
「しかし、裏を返せば鏡花ちゃんだけが独りで咎められる事態ではありませんよ」
「! 」
紬の言葉に少しだけ不安が拭えたような顔つきになる。
「まあ、今後ポートマフィアが関わるかは首領次第なんで何とも云えませんがね」
紬がこの話を終わらせる。
その後暫くは穏やかに話をして、紬は退室するべく立ち上がった。
「紬や」
そんな紬に紅葉は声を掛ける。
「何でしょう?」
「………本当にいいのかえ?」
今なら未だーーー。
紅葉は先刻と同じ質問を投げ掛けた。
穏やかだった空気が一瞬にして張り詰める。
「これでいいんです。それに」
「?」
途切れた言葉に紅葉が首を傾げる。
「今後、如何なる立場に於ても太宰治との接触を黙認するーーー復職にあたって首領に条件は突き付けてますから」
紬がニッコリ笑って云うと紅葉は「流石じゃのう」と笑った。