第34章 共喰い 其の肆
ソファに座って茶を飲む2人。
慌ただしい外とは違い、穏やかな空気がこの部屋には流れていた。
「して。紬が『首領の為』に動くわけなかろう―――本音は何処ぞ?」
カチャリと音を立ててカップを置くと紬に話しかける。
「探偵社とマフィア。その頭が不在の今、この戦争の勝敗はどちらも五分五分――。このままいけば共倒れの結末を辿る」
「矢張り、結末が見えておるのか」
「いえ、真逆」
「謙遜するな。正に今、その状況じゃぞ」
「『私ならそうする』――その範疇ですよ」
「……。」
紬は苦笑してお茶を口に運ぶ。
「何故じゃ」
「?」
「何故、探偵社に加担せんのじゃ」
「理由なら先刻も話しましたよ?」
「『均衡が崩れる』―――お主にとっては詰まらぬ理由じゃ。興味など無いじゃろうて」
「あはは。流石、姐さん」
紬は笑った。
そして、ニッコリと笑ったまま続ける。
「探偵社に力を貸さないのは治が『撃たれる事』を回避しなかったから。かと云ってマフィアに加担してマフィアが勝てば、探偵社が…治の居場所が無くなる。だから私は見学です」
「………主の兄想いは病の域じゃな」
「うふふ。病で済めば良い方ですよ」
和やかに話す2人。
その空気からは想像できないほどの爆発音が外から鳴り響く。
「『檸檬花道』かえ?派手にやっておるのぉ」
「流石に、探偵社も退かざるを得ないでしょうね」
その音の原因を話していると突然、叩敲が鳴り響いた。
「入れ」
紅葉が指示をすると広津が入室してくる。
「お邪魔したかな」
「いや。派手に戦っているようだけど良いのかい?」
「首領が居なくなりました」
「!?」
「……。」
広津の報告に紅葉が目を見開き、紬は口元に手を当てる。
「真逆、探偵社かえ!?」
「否、見張りの男の話では首領自ら外出したそうです」
「………成る程ね、流石だな」
そう呟くと広津の方を向く。
「広津さん、前線に『首領が外出した』事を告げて」
「ああ」
「姐さん、お茶ご馳走様」
「……如何する心算じゃ」
「それは各々の頭次第ですよ。でも―――」
紬は立ち上がった。
「我々の敵は同じ、ですからね」
ニッコリ笑って去っていったのだった。