第33章 共喰い 其の弐・参
ポートマフィア本部―――
「いやー此処まで殺気だっているとはねぇ」
やれやれ、と息を吐きながら紬は廊下を歩く。
厳重な警備の中、特に『何か』をすることなく。
まるで、今居る場所が本当の居場所かのように――。
通りすがりの人間に「やあ、お疲れ」等と声を掛けながら堂々と行く紬に誰もが仲間である、と。
疑問を持たないほどに侵入を許す。
殺気立った空気の中、鼻唄でも歌い出しそうな…。
軽い足取りで目的の場所を探していると、
「!」
突然、目の前の部屋の扉が開いた。
そして、その扉は『誰も入退室していないのに』勝手に閉まった。
「……。―――そういうこと」
紬は一瞬、何かを考えてから直ぐに納得して。
今し方、『勝手に開閉した』扉に手を掛けた。
「おやおや。鍵まで閉めちゃって」
ヘアピンを取り出してガチャリと開ける。
「「「!?」」」
扉を開けた瞬間に、中に居た人間が全員で此方を向いた。
「やあ、広津さん」
「……紬君」
ニコッと笑って挨拶する紬と、
正反対に強張った顔で息を飲むマフィア組――。
「………紬君まで乗り込んで来ているとは」
広津の言葉で銀と立原が構えるも、動こうとはしなかった。
目の前に居るのが、その人物の兄だったならば
少しだけなら……勝機があったのに。
「ふふ。私は別に首領を殺しに来た訳じゃないよ」
「「!?」」
「……ほぉ。それを信じるには如何したら良いかな?」
「私が『武装探偵社として』その気なら、先刻まで此処に居た彼を利用してとっくに済ませてる。それに、私は交渉で嘘など付かないよ」
「……。」
紬は銀たちに構えを解くように告げた。
2人は広津を見て、頷くのを確認した後に武器を下ろす。
「して―――探偵社でないとすれば要件は?」
その様子を見て笑う紬に、広津が問うた。
「姐さんに会いに。中也でもいいけど出払って居るだろう?」
「……。」
広津は黙った。
幹部が一人、不在であること。
故に、残っている人間すら把握していること。
この結末まで見えているのか――――。
広津は長い息を吐くと
紬の目的である人物の居場所を教えたのだった。