第31章 仮面ノ暗殺者
武装探偵社―――
その文字を掲げられた扉を勢いよく開けて、敦は中に入った。
「社長が襲われたって本当ですか!?」
大声で放たれた言葉に国木田が反応する。
「あぁ。一命は取り留めたが謎の症状で意識不明。与謝野女医でも治せんらしい」
「聞き込みをしてきたよ」
分厚い紙束を持ちながら近況を敦に伝えていると敦の後ろから新しい声が乱入してきた。
現れたのは双子。
声を掛けたのはその一方の兄の方だった。
その双子に、敦と国木田の注目が集まる。
「ここ最近似た暗殺事件が頻発しているね」
「路地裏で異能者が夜襲を受ける。既に何人か死者も出ているらしい」
兄の言葉に続いて妹の方も説明に加わる。
そして、スタスタ歩いてソファの背もたれ部分に2人揃って腰掛けた。
行動も言動も、性別以外の何もかもがそっくりな双子。
しかし、今日は妹の方の表情が違った。
何時もなら兄同様に柔らかい表情をしているのに今は何を考えているのか全く解らない程の無表情。
けれど国木田も敦も、今はその事を聞いたりしなかった。
―――兄である太宰が気にしてないからだ。
「犯人の特徴は?」
「正体不明の異能を使う事と仮面を被っている事だけ」
「『仮面の暗殺者』か……」
国木田の眉間に皺が寄った。
「尤も。私達が走り回る前に犯人は死ぬかも知れないけどね」
「え?」
その後に続けられた太宰の言葉に敦が驚きながら反応する。
「敦君。街で"異能者殺し"が大活躍して一番困る組織は何処だと思う?」
太宰の質問に少し考えて。
「……異能特務課ですか?」
敦は答えた。
「「逆だ。ポートマフィアだよ」」
太宰兄妹が口を揃えて答えを紡いだ。
「"夜の管理者"たるマフィアの与り知らぬ暗殺は異能者所帯であるポートマフィアにしてみれば鼻先でナイフを振り回されるような屈辱行為だ。これで若しマフィア側に犠牲者でも出れば……」
「マフィアの威光も地に落ちる、という訳か」
太宰の説明で国木田が状況を理解する。
「だが被害も出る前から動くか?」
「"常に先手が勝つ"森さんの口癖だ。必ず動くさ。それにマフィアの網は深く広い。暗殺者が隠れ家にしそうな場所にも通じてる。今頃は、隠れ家くらい突き止めている頃かもね」
今度は紬が答えた。