第25章 今思えばあの頃から
「私は治以外の人とシたことなんか無いよ?」
首を傾げながら告げる紬。
「……。」
「治?」
可愛い声で名前を呼ばれるけれど思考が追い付かない。
私以外の男とシたことはない?
「え?紬。私以外の男と添い遂げようとか思ったこと、1度もないわけ?」
「無いよ?許さないでしょ?」
「それは勿論、許さないけど……」
「譬え治が他の女を孕ませてても他の女と添い遂げようなんて私も許さないよ?」
「いや、許してくれなくて良いけど。そんなことしないから……」
「今は他の女と寝ることも許しはしないけど」
「それももうないね。必要ないから………」
「言葉の端切れが悪いけど、私は可笑しな事を云ったかな?」
「いや、全く」
「?」
紬が私以外の男に一切、応じてなかったなんて。
「知らなかった……」
「何をだい?」
紬を抱き締める。
「紬が私以外の男を知らないことをだよ」
「え……」
腕のなかで驚いているのが判る。
「そんなに尻軽に見える?」
「違うよ。悪いのは私だ」
コツンと額を引っ付ける。
「私の視野が狭すぎたのだよ」
本当に後悔しか無い。
勝手に思い込んで、嫉妬して。
挙げ句の果てに、性暴力、だ。
「ふふっ。それなら良いけど」
「!」
笑顔で云う紬。
その顔に怒りなどの負の感情は一切無い。
『最近、治が私に向ける怒りの理由が理解できない』
話が噛み合わなかったはずだ。
怒っている理由が判らなかったはずだ。
「却説と」
紬は最初から
「そろそろ上がろう。朝御飯の支度をしなければね」
『兄』や『男』の括りに関係なく、
「!?」
『私』だけしか見ていなかったのだから――。
「治!上がるってば!」
上がろうとする紬を引き留める。
「1回で終わるから」
「そう云って終わったこと無」
口を口で塞ぐ。
諦めたのか、抵抗せずに為すがままになる紬。
紬の云う通り。
「抑えられない。ごめんね」
終わる気なんか、無いよ―――。