第23章 騙し、見抜かれ、騙されて
「今やコントロールが上手くいっているからそれで済んでいるけど元々は違う」
「どういう事だ」
「私に触れた人間はこの間の女みたいに凡て崩れ落ちて……死んでいった」
「………は?」
突拍子も無いことを口走る紬に、口が塞がらない国木田。
しかし、紬の顔は無表情。何を考えているかサッパリ判らないが、嘘をついているとは思えない顔付きだった。
「私の『終焉想歌』は本来、『触れただけで百凡生物の生命活動を停止させる』異能力なのだよ」
「!?」
国木田が止まって思わず振り返る。
「意思に関係なく、触れた相手の心臓を勝手に止める呪われた異能だ」
ふぅと息を吐きながら続ける。
「だから常に傍に居たのだよ。人殺しにしないために」
「……。」
成る程。『人間失格』のお陰で太宰は………否、太宰だけは紬に触れることが出来たのか。
「唯一絶対で、唯一平等に与えられた『死』を自由自在に操れるのだから世界が退屈で詰まらないモノにしか見えない。何が愉しいか何が悲しいのかさえ感心できない。今思えば、それこそ人形の様だったね」
「……。」
「私達の世界において私達お互いが唯一で、絶対の理由だよ」
ニッコリ笑って告げる太宰。
「……今は?」
「人は変わるものさ。しかし、この件に関しての認識は変わらない。異能を制御出来る様になったから無意味な人殺しをしたりはしないものの、触れるときに躊躇わないかと問われれば否だろう」
「……。」
ギュッ
「何だい?急に」
繋がれた手を見ながら紬が首を傾げる。
「気にし過ぎだろう」
「……。」
直ぐにパッと離して歩き出した。
「前にも同じ事をして、同じ様な言葉を掛けた人が2人居た。一人はもう亡くなってしまったけど……」
「それくらい馬鹿げた悩みって事だろう。兄に依存する必要も本当はもう無いのだろう?」
「ふふっ国木田君も鋭いねえ。その通りだよ。『依存』する必要は無くなった。だから」
ろくなことを云わない時の顔。
紡がれる言葉を訊きたいような訊きたくないような気持ちで
「……だから?」
訊いてしまう。
その返しに満面の笑みで。
「恋人として健やかなる時も病める時も永遠に添い遂げる事になったから温かく見守ってくれ給え」
…訊かなきゃ良かった。