第23章 騙し、見抜かれ、騙されて
ピピピピピ……
真っ暗な部屋。
静寂に包まれた空間に突如、電子音が鳴り響く。
モゾッ
布団から手だけを伸ばし、音を発する機械を掴むと
「……はい」
未だ完全に醒めない頭で応じる。
『太宰か!?生きているようだな!?』
電話の声が思いの外、大きかったのか。
少し電話を離してから話始める。
「国木田君か………今何時だと思って……」
『あ?お前紬か!?太宰に掛けた積もりだったが』
「治なら隣で寝てるけど……代わる気は無いよ。此のまま用件を云ってくれるかい」
絶対に起きている筈なのに、目を閉じたまま抱き締める力だけ強くなった兄の顔を見ながら紬は続ける。
『緊急事態だ。社の「機密書類」が何者かに盗まれた』
「………乱歩さんに探してもらえば?」
『乱歩さんは夕方、急な依頼で県外だ』
「ふーん。でも何故、治に?」
漸く頭が回り始めたのか。
何時も通りのテンポで返し始める。
『返して欲しくば「対黒」の、どちらか片方の命を渡せと置き手紙があった。探偵社で対などお前達以外思い付かん』
「成る程ね。事情は判ったよ」
ふあーっと欠伸を1つ着く。
「治を起こして直ぐに向かおう」
『ああ、頼む』
ピッ……
「行きたくない」
「それなら私一人で行ってくるよ」
漸く太宰が口を開く。
そんな兄の腕の中から抜け出る紬。
「紬が居ないなら意味が無いじゃないか」
「ふふっ。じゃあ一緒に行こう?」
嫌そうに起き上がった太宰に寄り掛かると触れるだけの口付けが返ってくる。
紬は満足そうに笑うと出掛ける支度を始めた。
太宰もそれに倣う。
「にしても『対黒』に用事とはねえ」
「派手に動き過ぎたのだろう。マフィア達とも関わったしね」
「…絞れるかい?」
太宰が真剣な声で問う。
「暗殺を請け負う組織□□の残党が私達を探し回っていると云うのは知っていた」
「ああ。以前、異能組織の▲▲を潰すのにけしかけた組織?」
「そう。あの時、□□は内部で2分裂していただろう?片方が全滅すればって唆して三つ巴を狙って壊滅させた…積もりだったけどね」
「ああ…」
太宰がベージュのコートを羽織ながら紬の方を見ると、その後に続く言葉を予測できているのかコクリと頷く。