第21章 縺れた糸が解ける時
「治」
「ん?」
「私を『恋人』の位置に置くと大変になるよ」
「ふふっ判っているよ。現に紬は嫉妬に狂った恋人に寝る暇も与えてもらえずに大変だろう?」
「そうだね」
ポスッと胸に寄り掛かる。
「安心するかい?」
「間違いなくね」
「今まで口を出さなかった事まで云い出すかもしれないよ?」
「構わないよ」
「……離れないでくれるかい?」
その質問を訊くと顔を上げさせる太宰。
その口に、自分の口を寄せる。
「んっ……」
解放する気の無い口付けは回数を重ねる毎に深く長いものになる。
紬の身体から力が抜けたのが終わりの合図だった様だ。
そのまま耳元に口を寄せる。
「頼まれたって手離さないから覚悟しておいて」
笑顔でそう云うと
「却説と」
紬を抱えて立ち上がった。
「……何処に行くつもりだい?」
「何処って風呂場だけど?」
さも当然のように言い返す太宰に一瞬、言葉を失う。
「いや…一緒には入れないよ、流石に今日は」
「風呂場だから大丈夫でしょ」
「えっ……」
太宰は歩みを止めない。
嫌な予感が紬の脳裏を過る。
「……治兄様?真逆とは思いますが本気で一緒に風呂に入る気でしょうか?」
「勿論」
笑顔で返す太宰に慌てふためく紬。
「いや、一寸待って。しかも先刻、大丈夫って云わなかった!?」
「云ったよ?布団は流石に汚れてしまうからね。あ、でも紬の初めてを奪ったときの事を思い出せてそれはそれでいいかも」
「本気!?」
ただ風呂に入るだけ……
では済まないような内容を口走る。
「私がこの手の冗談を云ったことあるかい?」
「無いから慌ててるんだよ!」
「この時期、女性は感度が上がるそうじゃないか。それに妊娠もそれほど心配しなくていいし」
あ、何云っても駄目だ。
ニッコリ笑って云う太宰に完全に言葉を失う紬だった。