第19章 天の海をゆく白鯨のありて
―――
「中の様子は?」
イヤホンマイクで通信しながら太宰が話している。
此処はとある図書館の隠し部屋―――
内務省が機密拠点として使用している場所の一つだ。
そんな緊張が走る空気の部屋に
「貴様何者だ!?」
「探偵社の太宰なら既に此処に来ている!」
騒がしい声が乱入してくる。
「おかえり紬」
「ただいま治」
それに気付いた太宰が振り返るとどちらからともなく同じ顔、同じ声で笑顔で挨拶をする。
紬の今おかれている状況は、左右と後方に拳銃を構えられて両手を上げて『降参のポーズ』をとる程の不審者扱いされているところだ。
「せめてその髪戻したら良かったのに」
「今、反省しているよ」
「「!?」」
ずるりとウィッグを外して、周りの事など気にもとめずに兄の隣に歩み寄り――
「疲れた」
「ふふっお疲れ様。休んでて良いよ」
引き寄せられて太宰の膝に座る。
紬が肩口に頭を埋めるとぽんぽんと撫でてやり通信の方に意識を戻す。
「妹さん……?でしたか。済みませんでした」
そう言いながら男が椅子をもう一脚持ってくる。それを手をヒラヒラさせて断る。
「予定通り、か」
敦の通信に対する兄の返答を聞きながらポツリと呟くと、紬はそのまま目を閉じた。