第17章 沈黙の塔、鴉の宴
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ポートマフィア本拠地
「……仮に当時の太宰君達に首領の地位簒奪の意志がなかったのだとしても私の選択は凡て論理的最適解だ。後悔など無い」
首領の寝室。
「……。」
嘗て、その壁に自らが付けた血の痕が見えているかのように眺める森。
「だがもし太宰君達が今も私の右腕ならば組合ごとき……広津さん。全線への通信機を頼む」
「既にこちらに」
ともに寝室にて話していた広津に指示を出すも、既に用意がされていた。
通信機を繋げ、指示を出す。
「既に黒社会最凶と呼ばれた『対黒』が動いている」
ピクリと広津が反応する。
「我々は完全な同盟を結ぶ理論解を為すため――」
その通信の電源を切ってから言った。
「嘗て敵異能組織を一夜で滅ぼし「双黒」と呼ばれた黒社会最悪の二人組……一夜限りの復活だ」
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組合の異能者、ラヴクラフトが何かに反応する。
ドゴオッ!
人よりも遥かに大きい岩がラヴクラフトに直撃した。
「…ッ」
何が起こったか判らずに状況整理をするスタインベック。
そして、ラヴクラフトに直撃した岩を蹴って、何者かが此方に向かってくる。
その人物に向かって一斉射撃を始める組合の構成員だが
カランカラン
凡ての銃弾が空しく落下する。
その光景を何度目か分からない溜め息をつきながら見る太宰と、苦笑する紬。
そうしてアッサリと構成員を片付けると
「最初に云っとくがなァ」
その人間で構成された山の上に乗り上げて、太宰達に話し掛ける。
「この塵片したら次は手前等だからな?」
「あーあ。矢っ張りこうなった。だから朝から遣る気出なかったのだよねえ……」
「昨日の夜は不機嫌だったし、本当に困ったもんだねえ」
厭そうに云った兄と、笑いながら話す妹。
「バカな!こんな奇襲、戦略予測には一言も……」
バッ!と蒲萄の樹を操りだすスタインベック。
「はい。悪いけどそれ禁止」
ポンッと太宰が肩を叩くと蒲萄の樹が消えていく。
「なっ……異能無効化!?」
にっこぉーと笑顔を向ける太宰。
そしてすぐに屈むと同時に
ゴッ!
後方から中也の蹴りがスタインベックの頭部に綺麗に決まる。
「あぁ最悪だ最悪だ」
「私だって厭だよ」
「やれやれ困った二人組だねぇ」
三人揃って各々が喋りだす。
対組合共同戦線――反撃の狼煙だ。