第12章 The strategy of conflict
与謝野の質問に答えようと、其方を向いた瞬間に乱歩の声がカメラから発せられる。
『組合は僕達と同じように罠を疑った筈だ。しかし彼等は食いついた。余りに『餌』が魅力的だったからだ』
「……拙い」
紬は顎に手を当てる。その顔は険しい。
「だから……何がだい……?」
『何で組合を釣った?』
与謝野の質問と乱歩の質問が重なる。
中也は紬の方を見て怪しく笑う。
「手前ェなら判るだろ?」
「……と、云うことは正解か」
はぁと溜め息を着く。
「事務員………それも若い女を『餌』にしてる筈だ。ナオミちゃん達が危ない」
『事務員を『餌』にしただと!?』
紬の言葉を正確に拾った福沢が叫ぶ。
「直ぐに避難すりゃ間に合う。その上組合はお宅等が動く事を知らねえ。楽勝だ」
『………ッ』
此処で福沢の言葉が途切れた。
「つまりアンタらは事務員の居場所を探り出して組合に密告し、さらにそれを探偵社に密告。自分達は汗ひとつかかずに二つの敵を穴に落としたって訳かい」
与謝野が状況を整理する。
「穴だと判っていても探偵社は落ちずにはいられねえ。首領の言葉だ」
ニヤリと笑って告げた。
そこまで黙って聞くと紬はフムッと言って歩き出した。
「って紬?何処に行くンだい?」
「これで私が守勢に居る必要が無くなった。治の予定通りに攻勢に戻ろうと思って」
ニッコリ笑って云うと再び歩き出す。与謝野たちも止めなかった。
中也に近付く。
「中也、私は今から予定通り攻勢に戻るよ」
「あ?だったらなん……」
冷たい眼を向ける―――
「!」
「覚悟しておき給え、とお伝え願おう」
それも一瞬。
直ぐにいつも通りの紬に戻る。
変わってねぇな……ったく。
知らぬ振りをして、最初から識っていた可能性が高いな……
態々守勢に居て、自分と対峙した位だ。
この結果とて見えていたのかもしれない―――。
先程、福沢が『高等戦術』とまで云った戦略を最も得意とする人物が動き出した。