第1章 クラスメイトの千石くん
うちのテニス部は強豪で、その中でも千石くんは飛び抜けて上手いらしい。
ラッキーだなんて本人は言うけど、千石くんが練習する姿を見かけたとき、本当に努力家なんだなぁと思った。
私はバドミントンしかしてこなかったから、テニスの事はあまり知らないけれど千石くんはすごい人なんだと思う。
というより、真面目に練習する姿に釘付けになってしまって、それ以来、憧れに近い片想い。
普段の千石くんの物言いは軽くて、女の子が大好きなチャラい印象だから、本気を隠す姿はなんだかもどかしいけど、それも千石くんなんだよね。
真面目な顔、結構素敵なんだけど。
委員会は滞りなく終わって、下駄箱に向かうとまたテニス部の人たちに遭遇する。
「おっ室町くーん」
千石くんが声をかけると、サングラスの男の子が振り返った。
「あ、お疲れサマでーす」
「室町クン達もどっか行くの?」
「ああ、壇が言ってた亜久津先輩とケーキ屋っスか?行かないっス。俺たちは別です。音ゲーでもして帰ろうかなと。千石先輩も行きます?」
「残念だなぁ〜、俺はこれからデートなんだ」
嬉しそうに千石くんが言うと、室町クンはハイハイ、と適当に返事をした。
「あ、なにその返事ー!」
千石くんが室町クンに後ろから技をかける。
「いたいいたい、先輩、いたいです、すみませんでした!」
「分かればヨシ」
ふふ。
思わず笑ってしまい、はっと口に手を当てると、固まった室町クンと千石くんが私に振り返った。
「あの、ごめん、仲良さそうで、楽しそうだったから可笑しくて」
「いやぁ、うん、うちの部活仲良いからねぇ」
「あ、すみません、デートってこの人と?」
「うん、クラスの子なんだ、可愛いでしょ?」
「またそういうこと言って、みんなに可愛いって言ってるの知ってるんだから」
誤解しないように普通に接するのが精一杯なんだから、これ以上期待させないでほしいな。
「あはは…」
千石くんの困ったような笑顔を見て、今の返事が正解だったと安心する。