第1章 クラスメイトの千石くん
「お、ちゃん、オハヨ。今日もかわいいねぇ〜、朝からラッキー」
「おはよう、いつも同じバスなんだから、会わないことの方が珍しいじゃん」
上手く笑顔を作ったつもりだったけど、なんだか冷たい言い方になってしまった。
「相変わらず姫はクールだなぁ」
気にしていないように千石くんは笑うけど、私は朝のスタートで上手く挨拶が出来なかったせいで少し落ち込む。
「クールじゃ、ない、よ」
ああ、噛んだし、もう今日はアンラッキーだよ…
「あはは、ちゃん噛んだーっかわいいっ」
「はいはい、ありがと」
千石くんは誰にでもそんな感じだから、いちいち反応していたら身がもたない。
「本当にかわいいと思ってるよー?」
「だからありがとうって」
自然に笑ってしまい、今度は可愛く笑えたかが気になった。
「お、やっと笑った。やっぱりちゃんは笑顔がかわいいね」
顔に熱が昇る。
「もう、何言ってるの」
にっこり笑う千石くんは余裕しゃくしゃくで、なんだか悔しくなる。
クールな姫なんかじゃなくて、本当はもっと可愛くしたいのに、断れない性格のせいで、いろいろ引き受けているうちにそんな風に呼ばれるようになってしまっただけ。
可愛い小物やひらひらしたものも好きなのに、どうしてだろう?
「ねぇ、スポーツ大会、ちゃんは何に出るの?」
いつもにない話題に身体がびくりとする。私は予想外のことに弱い。
「あー、えっと、私は、やっぱりバドミントンしたいかなと思ってるよ」
「えー?せっかく一緒に運営委員になったんだから、一緒の競技に出ようよ」
そう、中学最後の学年、思い切って運営委員に立候補したら、男子は千石くんになった。きっと、中学最後の神様からのプレゼント。
「えっと、別に、良いけど、千石くんは何に出たいの?」
「うーん、まぁ運動は好きだし、なんでも良いんだけどね」
「そっか」
委員会が同じになっただけでしあわせだから、もうそれ以上は良いんです、神様。
「委員だからって勝手に決めたら、やっぱり責められちゃうかなぁ」
呑気に言う千石くんの元気なオレンジ色の髪はしっかりセットしてあって、いつもオシャレ。
「クラスの希望見てから決めれば良いんじゃないかな」
「そうだね、そうしよう」