第14章 誘拐
部屋に入ってきたのは
貴族の服をまとった中年の男だった。
「はじめまして、星詠み師の……イリア」
男の笑みは気持ちの悪いものだった。
(誰なの……)
怪訝そうに見つめるイリアに、男はうやうやしく挨拶する。
「これは失礼しました、私はこの辺境の地を統治しております、エドガーと申します」
(エドガー……)
「もう間もなく、ドレナの国王陛下があなたを引き取りにいらっしゃいます。
陛下は星詠みと未来予知の力を大変高く買っており、ドレナにご協力頂けるのならそれなりの地位を用意するとも仰ってますよ」
(それで私のこと拉致ったってことか……)
「どうやらあなたの存在はウィスタリア王宮の官僚たちの間では随分疎まれているようですね…。
あなたの力を理解できないとは本当に…年寄りは頭が固くて嫌ですね」
それは事実だ。
私は会議にかけられ
罪人にさせられそうになっていた。
仮にここから抜け出せたとしても
王宮で以前のように過ごすことは
とても困難に思えた。
(もし…私が罪人になってしまったら)
ジルとは
もう会えなくなるのだろうか。
エドガーと名乗る目の前の男の言葉が
頭に入ってこない。
「ドレナの王宮に入れば、陛下の右腕としてあなたの将来は約束されますよ」
………嫌だ。
ジルのそばを
もう二度と離れたくない。
ウィスタリア王宮に戻って
会議にかけられたら
私は罪人になる可能性がある……
でも
それを助けてくれる人が
数多くいるのも事実。
もう
私は一人じゃない。
私の帰る場所は
もうひとつしかないんだ。
「ドレナへ行く気はありません」
自分でも驚くくらい低く冷静な声で
イリアは言い放った。
「私の帰る場所はウィスタリアの王宮です。私の力は、ウィスタリアに捧げる覚悟をしています」
榛色の瞳が
まっすぐエドガーを射抜いた。
「私にこんなことをして、あなたもただではすみませんよ」