第14章 誘拐
「おい!ジルは!!」
ノックもなしに勢いよく開けられた執務室のドアに
中にいたレオは驚き目を見開いた。
「シド!…何?」
いつものシドとは全く違う様子が
ただ事ではない事態を予感させた。
「おい…あいつ、どうなってんだ…」
「あいつって…イリアちゃんのこと?」
執務机に座るレオの目の前に
シドは手に持っていた書類を投げ出した。
「………辺境のエドガー伯爵が不正を働いて、親父の部下を脅してた件で調べてたら…とんでもねぇのが出てきやがった」
「……グランディエ大公の?え?どういうこと?」
レオが書類に目を落とすと
エドガー伯爵がグランディエ大公…つまりシドの父の部下を恐喝していた事実
そしてドレナ王国が裏で関与し、ウィスタリア転覆を目論んでいる事実が
詳細に渡って書かれていた。
「この国を転覆させるのに一番効果的な方法を、あいつら嗅ぎつけやがったんだ…時間がねぇ!」
「シド、それどういう意味…?」
「……たく、てめぇの弟はどこで油売ってやがんだよ!!」
レオは何かを察したのか
みるみる顔色が変わり、立ち上がる。
「まさか……イリアちゃ……」
「今さっき知らねぇ馬車に連れ込まれて走り去ってった。……ドレナに渡ったらもう取り戻せねぇぞ」
「シド!」
シドは黙って頷く。
「……おそらくあれはエドガーの手下だ。だとしたら、エドガーの屋敷でドレナ国王にイリアは引き渡されるはずだ。
引き渡される前にあいつを取り戻すしかねぇ」
「わかった。今俺達が馬で追うより…ジルに頼んだ方が早いかもしれない」
レオは小さな紙に事の次第を走り書くと
「セバスチャンを飛ばす。今、ジルはルイのところにいるから……」
「……それならジルが一番近ぇな。下手すりゃ先回りできる」
ルイの領地はエドガー伯爵の領地と隣り合っており
距離的にはかなり近かった。
「てめぇの鳥はアテになんのかよ」
「セバスチャンを馬鹿にしないでよね」
「そうかよ………じゃあ俺は行くからな」
「えっ…シドどうするの?」
シドはレオの方へ振り返らず、背を向けたまま答えた。
「俺は俺のやり方で…やるだけだ」