第14章 誘拐
「ジルが出発した途端に押し掛けるっていうのはどういう魂胆?」
いつも優しく笑う緋色の瞳は
見たことのない冷たい色で
その場にいる官僚たちを睨みつけていた。
「レオ…」
「そんな不当な会議の発動を誰が認めると思う?
大体プリンセスもジルも不在でどうやってやるわけ?」
「……しかし、この女が国政に関与しているとなれば、大問題だッ」
「そうかな…?星詠み師が国の発展に貢献している例は数多くある。…現にここ最近のウィスタリアはかなりの国益を上げてるはずだけど?」
その場の官僚たちが押し黙る。
「……イリアちゃん、ジルがいない間に会議は絶対やらせないよ。今は…部屋に戻って」
「あ…でも」
ちらりと、机の上の書類の山に視線を送る。
レオは頭にぽんっと手をやる。
「大丈夫。溜まった公務より、君の方が大事…ジルだって同じことをするはず」
イリアは黙って頷くと、レオに促され私室へと戻った。
「……久しぶりだな、ここも」
日が少し傾き始めた頃
王宮を訪れる人物の影があった。
手に持つ書類に目を落とすと
ふっと自嘲の笑みを浮かべる。
「…俺も、お人好しだな。こんなんじゃなかったんだがな」
ミッドナイトブルーの瞳が少しだけ揺れ
城の方へ歩きだす。
(……ん?)
城の裏手。
見慣れない色の馬車が停まっている。
(来客…じゃなさそうだが)
シドは少し気になり
気配を消しながらそっと裏手の方へ回った。
そして
目を疑う光景を見た。
(………っ!!)
貴族服を着た見知らぬ男が
気を失ったイリアを抱きかかえ
馬車に乗り込むところだった。
シドが遮ろうとする間もなく
馬車はものすごい速さでその場を去っていってしまう。
(おい……これって)
青ざめたシドは
再び手にした書類に目を落とすと
城の入り口の方へ一気に駆け出した。