第12章 抗えない【R-18】
あれ以来、顔を会わせることのないシド。
あの夜、告げられた言葉の真意も
今となっては分からない。
ただおぼろげに残る記憶の中で
シドは日が昇るまで
何度も何度もイリアを抱いた。
黙ったまま
何かをかき消すように
そして貪るように
イリアを抱いていた。
でも。
「シドとは…王宮に来る前、確かに関係を持ってたけど」
「……」
「シドは、後腐れのない私のこと、都合が良かったんだと思います」
選定会で、ジルに出会って。
ずっとずっと
かなわないと知りながら思い続けていた。
苦笑しながら、イリアは続ける。
「シドもひどいんですよね…私が落ち込んでるタイミングで酔いつぶして持ち帰って……弱ってる時に『好きだ』とか言ってきて」
「えっ。あのシドが?」
「はい」
レオは目を見開き、心底驚いたようだった。
「シドもそんなこと言うんだね」
「おかしいですよね……だから、もう……」
イリアの頬を
温かいものが伝い落ちた。
「わけ…わかんなくって……」
「イリアちゃん…」
笑顔を崩さないように瞳を細めると
溜まっていた涙が一気に零れ落ちた。
「私…最悪。……シドのこと、拒絶……しきれなかった」
「うん…」
「ジル様のこと……大好きなのに…断れなくて」
「…仕方ないよ、あの日は」
「仕方なく…ないです……私、ジル様を…」
裏切ったんだ。
彼の惜しみない愛を
裏切ったんだ。
「ねえ、イリアちゃん」
レオは、イリアの頭をぽん、と撫でた。
「人はすれ違う時がある。そして小さなすれ違いが、大きな溝を生むこともある」
イリアは涙を拭って、こくりとうなづく。
「でも、本当の愛は、そう簡単には消えないよね」
「?」
「君の、ジルへの愛が消えないように
ジルもまた
君への愛を簡単に手放すことはないはずだよ」
その言葉を、まだ信じきれない、といった顔を浮かべていると
レオはにこっと笑う。
「君は気付いていないのかもしれないけれど」
「?」
「君が眠る午前中の私室の前を、ジルはいつも通ってる…時折中を伺うようにね」
「まさか」
「こうしている今も…」
「え?」