第11章 すれ違い
扉をノックしたのは
期待していた人ではなく
…意外な人物だった。
ミッドナイトブルーの瞳は
いつも通りせせら笑っていた。
「よぉ、ヒマそうだな」
「シド!」
「お前、今日休みなんだろ?付き合えよ」
シドはくしゃりとイリアの髪を乱した。
「え、でも…」
「たまにはいいじゃねえか、今日『お目付け役』いねぇんだろ?」
(その『お目付け役』を待ってたんだけどな…)
イリアは机の上に置かれたバスケットに
一瞬視線を投げた。
シドはそれを見逃さなかった。
「なんだよ、これ」
「あ、それは!」
イリアはバスケットを見られるのが
ものすごく恥ずかしかった。
できることなら誰にも見られず
こっそり始末したかった。
しかし、シドにそれは通用しなかった。
「うまそうだな」
「……」
止める間もなく
シドはマドレーヌを口に放り込んでいた。
「…お前意外と、料理できんだな」
全く褒め言葉に聞こえないシドの呟きは
イリアの耳には届かなかった。
反応のないイリアに怪訝そうな顔を向けると
榛色の瞳はすっかり意気消沈していた。
「…………」
「……おい」
「………え、何?」
「シケたツラしてんじゃねぇ。行くぞ」
顔を上げると、シドは手をナフキンで拭いていた。
バスケットの中は空になっている。
「え、今全部食べたの?」
「ん?ああ…なんだよ、わりぃか?」
「いや、早食いすぎでしょ…」
何も残っていないバスケットを見て唖然とするイリアの腕を掴み
シドはそのまま引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと!」
「食わせてもらったお礼に、奢ってやる。来い」
シドは口角を上げて、戸惑うイリアを強引に連れ出して行った。