第11章 すれ違い
ジルとの約束の日
イリアは予定よりも早起きをして
湖へ持っていく食べ物や飲み物の用意をしていた。
アランに許可をもらい
騎士宿舎のキッチンを借りて
サンドウィッチやフルーツを用意する。
(紅茶の美味しい淹れ方……ユーリに聞けばよかったな)
水筒に紅茶を入れ、バスケットにつめていく。
オーブンからはマドレーヌの匂いが漂ってきた。
(甘いもの……好きだもんね)
自然と笑みが溢れるイリアは
焼きたてのマドレーヌを包んだ。
外は雲ひとつない
吸い込まれそうな青空だった。
用意したバスケットを抱え
おろしたての、濃紺のワンピースを着て
イリアはジルの部屋を訪れた。
「……ジル様?」
ノックしても反応がない。
「…失礼します?」
扉を開けて中を覗くも
誰もいない。
(どこに行ったんだろう)
入れ違いになったのかと思い
自分の部屋や
それ以外の思い当たる場所を探すも
ジルの姿は見当たらなかった。
中庭に差し掛かると
「あ、イリアちゃん」
レオが声をかけてきた。
「あ、レオ……ジル様見なかった?」
「あれ?イリアちゃん何も聞いてないの?」
レオの話によると
未明に急な公務が入り
そのまま外出したきり戻ってきていないとのことだった。
「ジル様、何も言ってなかった?」
「うん…何の公務かも聞いてなくて」
「そうなんだ……」
もしかすると
出かける頃には戻るつもりで何も告げなかったのかもしれない…
イリアはそう思い、
レオにお礼を告げてその場をあとにした。
しかし
午後のティータイムを過ぎても
ジルは戻らなかった。
いつもより早起きをしていたイリアは、
いつの間にか私室の机でまどろんでいた。
ふと目覚めると
日はだいぶ傾いていた。
「………」
当然部屋には誰もいない。
でも、直感的に
王宮のどこにも、ジルが戻っていないことを
イリアは悟った。
傍らには
すっかり冷めきった、紅茶やマドレーヌ、サンドウィッチの入ったバスケットが佇んでいた。
(……晩ごはん、かなぁ)
自嘲気味の笑みをバスケットに向けると
扉を叩く音が部屋に響いた。