第9章 別邸
「間に合ってよかった」
アランは後処理を部下に指示する。
「ジル、プリンセスは」
「ユーリと中にいます」
「…念のため、屋敷の中も見回る。説明は後だ」
アランは数名の部下を引き連れて屋敷の中へ入った。
解せない顔をしているジルのことを
イリアは大きな声で呼んだ。
「ジル様!!!」
「………イリア!」
暗闇から現れたイリアの姿を見て
ジルは心底驚いたように目を見開く。
息を切らせ、乱れた髪もそのまま
イリアはジルとハワード卿の元へ駆けつけた。
「……お二人共、ご無事でよかったです」
「一体、どういうこと?」
ハワード卿は冷静にイリアに尋ねた。
未来予知のことを知らないハワード卿にどう説明するか一瞬悩み、イリアは息を整えてゆっくり答えた。
「…保養中に騒ぎを起こしてしまい申し訳ありません。別邸に奇襲をかけるという情報が入り、取り急ぎ騎士団を派遣させて頂きました…」
「そう……」
ハワード卿は賊を捕らえ連れて行く騎士団たちの背を見つめて言った。
「……ジルの秘書さんだったね」
「はい」
「迅速な対応に感謝するよ」
ちょうどその時、アランが屋敷内の見回りを終えて戻ってきた。
「屋敷内は安全だ。プリンセスも大丈夫」
「…良かった………」
張り詰めていたものがふっと途切れるのを感じると
イリアはそのままその場に崩れ落ちた。
「っ!イリア!」
反射的にジルが抱きとめる。
よく見ると顔色が悪い。
「ジル、ルイ…俺は賊をこのまま捕えて戻るつもりだが……こいつは少しここで休ませてやれないか?」
ルイは黙って頷く。
「助かる」
そう告げて、アランは部下と共にその場を後にした。
ジルは意識のないイリアを抱きかかえ、屋敷の中へ入っていった。