第9章 別邸
色のついた「未来予知」は
これが二度目だった。
それが
「好きな人」の血の赤。
(いや………ジル様………!!)
「……ちゃん……イリアちゃん!!」
「………っ!!」
その瞬間
肩を掴まれる
人の手の温かい感触が伝わってきた。
「あ……」
振り返ると
そこは執務室だった。
肩を掴んでいたのは
レオだった。
レオは心配そうな顔をして覗き込む。
「どうしたの…?何か、あった??」
頬を涙が伝い落ちる感覚がして
初めてイリアは泣いていたことに気づく。
「……レオ、お願いがあるの」
「何?」
血の気が引き、今にも膝が崩れそうになるのを必死にこらえながら
イリアは涙を拭ってレオを見上げた。
「別邸へ今すぐ騎士団を…派遣して」
「えっ?どういうこと?」
「今…見たの。今日の夜か、明日の…とにかく夜に……」
続きを伝えようとして、イリアの脳裏に赤い色がよぎり、吐き気がこみ上げる。
「………ぅっ」
「えっ?!イリアちゃん!」
「何してんだ」
すると突然扉の方から声がした。
吐き気をこらえながら、何とか意識を握りしめる。
「ジルはいねぇのかよ、エロ官僚」
「シド…!それどころじゃない、イリアちゃんが」
抱きとめてくれているレオがそう言い
顔を上げると
そこには
あの懐かしいミッドナイトブルーの瞳が
こちらをまっすぐ見ていた。
「おい、何があった」
シドはただ事ではないことを悟りこちらへ来る。
「……何を見た」
レオに抱えられながら震えるイリアに、シドは尋ねる。
「別邸で…奇襲が……ジル様が……」
シドはすぐ状況を飲み込み立ち上がった。
「アランいんのか?」
「ああ、いると思う」
「すぐ向かわせろ。こいつの予知は当たる」
レオはイリアをシドに任せるとアランを探しにその場をあとにした。
「……よぉ、久しぶりだな」
「…………シド」
シドは口角を上げて言う。
「あん時みてぇに真っ青だな。とりあえず休め」
「……私も、行く」
「あ?何言って……」
「大丈夫……」
少しふらついていたが
それより何より
ジルを助けたかった。
あの赤を、現実にしてはならない。