第9章 別邸
ジルのいない執務室で
イリアは簡単な仕事から片付けていった。
少し難しいものは
たまに様子を見に来てくれるレオに助けてもらいながら
滞りなく進めていくことができた。
ジルたちが発った次の日の昼
「はぁ〜〜っ」
いつもよりこなす仕事が多く伸びをして外を眺める。
窓を開けると、まだ残暑の残る風がふわっと入ってきた。
(まだ暑いなぁ)
ところどころ白い雲が浮かぶ
真っ青な空を眺める。
(ジル様は別邸でどのように過ごしてらっしゃるのかなぁ)
この空で繋がっている、と思いを馳せながら眺めていると、
「あ」
視界の隅から
真っ青な空が少しずつ白黒になっていく。
(……来た)
一瞬ぞくりと寒気がした。
(あの時と同じ……嫌な感じがする)
すっかり白黒になった空から
ふっと視線の位置を戻すと
イリアは
さっきまでいた執務室ではなく
まったく別の場所にいた。
(…外?)
王宮のそれより小さいが
整った庭園。
庭園の先には
小さいが荘厳な雰囲気のある屋敷がある。
白黒だが、空には
太陽ではなく月が浮かんでいることから
夜であることが分かる。
実際の夜よりも明るく見えるのは
これが特別なビジョンであることを物語っている。
星が一つも見えないのが
イリアにとっては異様に思えた。
庭園を抜け、建物に近づくと
建物の影に、何人かの人影が見えた。
(3人…かな、ううん4人だ)
人影は、裏手にある窓を割ると
そこから侵入していった。
「侵入者だ!!」
中から緊迫した声がする。
「ジル様!プリンセスを!!」
(これは、ユーリの声?)
正面玄関の方へ振り返った瞬間に
イリアは屋敷の中らしき場所へ移動していた。
目の前では黒づくめの賊2人と
ユーリが短剣を交えて競り合っている。
その奥には
ハワード卿とプリンセスを誘導しようとするジルがいた。
(ジル様!)
向かい側には別の賊が迫り、ハワード卿がプリンセスを背に剣を引き抜き対峙する。
(もう1人いるはず…あ!)
ハワード卿が剣を交える横を、もう1人の賊がすり抜けプリンセスへ迫る。
「プリンセス!!」
武器を持たないジルは、プリンセスへ覆いかぶさるように庇う。
(ジル様だめ!!!)