第7章 宮廷星詠み師
「なに、寝てんの?」
突然耳元で声がして
イリアはぱっと目を開けた。
「うわっ!」
目の前に、アランの顔があった。
あわててとび起きてしまい、覗き込んでいたアランの額に頭をぶつける。
「って!!」
「わ、ごめんなさい…」
「…んだよお前……」
アランはマグカップに水筒を持ってきてくれていた。
「飲むか」
「え?わざわざ持ってきてくれたの?」
「…いらないなら、いいけど」
「え、いるいる…何持ってきてくれたの?」
にやりと口角を上げたアランは、水筒からマグへ飲み物を注ぐ。
湯気が立ち、いい香りが漂う。
「あ、紅茶?」
「ユーリほどうまく淹れられねーけどな」
ユーリ、というのは確かプリンセス付きの執事だ。
何度か顔を会わせることはあったが、話したことはなかった。
アランから紅茶を渡され、イリアは一口飲む。
「わ、美味しい」
「そりゃよかったな」
アランは満足げに少しだけ笑うと
空をあおぎながら、自分も紅茶を飲んだ。
「……星、好きなのか」
「…うん」
イリアは自然とアランに夏の天球の解説をし始めた。
「でね、あそこの星が今示しているのは、この星座を守護に持つ人の運気で、この先1週間は気をつけた方がいいの…角度的にかなり珍しいポジションで……」
「……つーかさ」
黙って聞いていたアランが口を開く。
「え?」
空を見ながら延々としゃべり続けていたイリアは、しゃべりすぎたことに気づきはっと口元を押さえる。
「……何者なの、アンタ?」
「……」
(もう、黙ってたらおかしいよねこれは)
「実はね…私、ジル様の秘書だけど、本当は星詠み師なんだ」
「あ?なにそれ…占い師みたいなやつ?」
アランは怪訝そうな顔をする。
「うーん……ほぼそんな感じ」
「あの、女がきゃーきゃー騒いでる、あれ?」
「……うーん、間違ってないけど、そうかな」
アランはますます解せない、といった顔つきだ。
「…王宮に必要だとは思えねーんだけど」
騎士団長のアランらしい答えだな、と思い
イリアは苦笑した。
「ふふ…アランの役には立てないと思う」
一瞬だけ、アランは目を見開いたかと思うと
イリアから視線をそらした。
心なしか、顔が赤い。