第7章 宮廷星詠み師
夜10時。
イリアは部屋で
ジルに頼まれていた書類を仕上げていた。
ひと段落し、書類をまとめていると
コンコン、と
扉をたたく音がした。
「はい」
イリアが返事をすると
「お疲れ様です、イリア」
現れたのはジルだった。
「ジル様、ちょうど終わったので伺おうと思っていたところです」
イリアが書類の束を渡すと
ジルは目を細めて微笑んだ。
「…いつも助かります」
「いえ…でも肝心の星詠みや予知の方ではさっぱりお役に立てず…なんだか申し訳ありません」
「それはこちらのセリフですよ、イリア」
ジルはイリアのブルネットの髪をそっと撫でた。
そのしぐさに胸の鼓動が大きく跳ねる。
「本来の貴女の能力を存分に活かせる環境に置いて差し上げられないのは、他でもない私の力不足です」
「いえ…私は」
少し言い淀んでから、イリアは続ける。
「私は…ジル様のお傍にいられるだけで…嬉しいです」
「…イリア」
髪を撫でていた指先が、イリアの顔をつつっと撫でる。
「…っ」
頬が紅潮していくのを、はっきりと自覚できる。
「良かった…」
ジルの深紫の瞳は、見つめられるとそのまま吸い込まれそうで
その引力に負けそうになる。
たまらずイリアは俯いていたが
「私も…」
ジルの言葉にゆっくり顔を上げた。
「私も、貴女が王宮にいらしてから…毎日がとても充実していますよ。改めて…お礼申し上げます」
「…いえ、お、お役に立てて光栄です」
ジルが書類を受け取り部屋を後にしてから
イリアは大きく深呼吸をした。
(はぁぁ……ジル様、やっぱり緊張するなぁ)
ある意味フランクなシドと比べ
ジルは上品で紳士的なためか
憧れと尊敬と共に緊張もしてしまう。
そして
たまにとても近い距離に迫ってくるジルに
いつもドキドキしてしまう。
(ジル様にとっては…普通のことなのかな…)
当たり前のことだが
ジルは決して「手を出す」ようなことはしない。
あくまで仕事上のやりとりだけ。
(ジル様が私なんか相手にするはず…ないよね)
撫でられた顔に手をあてて、イリアは外へ出る準備を始めた。