第5章 再会
もう二度と会えない代わりに
無意識で選んでしまった「1%の可能性」のことを
ジルは思い出していた。
(また会えるとは……)
あの時の彼女もジルにとっては目を引く存在だったが
今目の前にいる彼女は、あの時はあまり感じられなかった女の色香を漂わせている。
(プリンセスに選ばなくて正解でした…)
選んでいたら今頃は……
会う貴族会う貴族に手籠めにされていたことだろう…
ジルはそう思わざるを得なかった。
「シド、一体どういうことなの?」
イリアの一言でまた現実に戻る。
そうだ、今日は例の件の「依頼人」と会う話だったのだ。
ということは
(イリアが依頼人…?)
再び彼女を見やる。
不思議な魅力のある、美しい女性だが…
特別何かを企てているようには見えない。
シドはジルを見やり、はっきりと告げた。
「ジル、こいつが今回プリンセスを凶事から守れと依頼した女だ」
「!!」
核心にせまった言葉を聞き、ジルははっとなる。
するとイリアは
「え、ちょ…ちょっとシド、それはおおげさじゃ…」
言いかけると、シドがたたみかけた。
「おおげさ?お前がああ言ったから俺が直接パーティに出て止めたんだろうが」
「え、じゃあやっぱり……」
「あ?ああ、そういや結果を言ってなかったな」
ちょうど良いタイミングで給仕が酒を運んでくる。
ジルがシドに目くばせすると
「ああ、気にするな。ここの人間は全部俺の知り合いだ。ここで知り得た情報は絶対もらさねえ」
小さく泡立つ黄金色の酒を尻目に、シドは続けた。
「…やっぱりお前の言った通り、『緑色の服の男』が刃物持ってうろついてた。…安心しろ、出す前につまみだした」
イリアの安堵する表情を見て、ジルはますます分からなくなる。
「イリアさん…」
「!は、はい…」
名前を呼ばれたイリアは、少し顔を染めてジルに答える。
「あなたはなぜ……あの日の凶事を知っていたのですか」
もうジルは『最悪の状況』を疑うことはなかった。
だからこそ、ますます
なぜイリアがこのことを知り得たのか、だけが引っ掛かってしかたなかったのだ。