第4章 回避【R-18】
そこには珍しく先客がいた。
先客もイリアの気配を感じると
読みかけの書物から顔を上げた。
「あ…」
「……あ、えっと」
黒縁眼鏡の奥の緋色の瞳。
短めの銀髪。
王宮での記憶が蘇る。
「レオ様?」
「えっと、イリアちゃん、だよね」
レオは緋色の目を細め微笑みかけた。
「はい…覚えてて下さったんですね」
「もちろん……なんか、こないだとは雰囲気違うね」
イリアの髪は湿気のせいか髪がゆるくうねっていた。
選定会の時は淡い色の装いだったが、今日は黒のサマードレスだ。
「そ、そうですか…?」
「うん…今日もすごく綺麗」
レオの言葉に上手く返すことができず、
イリアは曖昧な笑みを浮かべてしまう。
「あ、ごめんね…勉強の邪魔しちゃったね」
「あ、いえ…いいんです」
イリアはレオから少し離れた場所に座り、手に取った本を開いて目を落とした。
どれほど時間が経過したのだろうか。
イリアはあらかた本を読み終え、目を閉じて伸びをした。
ふと横を見ると、レオはまだ熱心に本を読んでいる。
(そろそろ出ようかな…)
すると、レオはイリアの視線に気づいたのか顔を上げた。
「…イリアちゃん、もう帰る?」
「えっと…あ、はいそろそろ…」
「じゃ、俺も行こうかな」
「もういいんですか?」
「うん。この本、もう読むの5回目だから」
レオは眼鏡を外すとにこやかに本を閉じた。
外に出ると、スコールは止み
日差しが一気に湿度を高めていた。
「うわっ、あつ…」
むせ返る湿度に、息が止まりそうになる。
「レオ様は、王宮へお戻りですか?」
「うん……あ、レオでいいよ。敬語も使わないで」
そう言われても
イリアにとって王宮に関わる人々は皆
住む世界が違う。
華やかで、気品があって
美しくて…
自然とイリアは
深紫の双眸を思い出す。
(ジル様…元気かな……)
「あれからジルも忙しそうだけど元気にしてるよ?」
「え?!」